寂しい | ナノ



メールも電話も、最近していない。喧嘩したわけではない。会いたいなんて前だって思っていたはずなのに、今はその行き場のない気持ちがやるせなくなるから。
あと少し、あと少し、我慢すればいいだけの話なんだ。



「あ、大串くん。眉間にしわ寄ってるよー……っていつものことか。」

ふらりとやって来て俺の顔を指差して笑ったのは、何かと接点のある白髪天パ。こいつがかなり癪な奴である。

「うっせーよ。俺の視界に入るなって言ってんだろ。」

「違います〜。大串くんがあんまり酷い顔してるから、嫌でも見ちゃっただけです〜。」

「じゃあもうどっか行け。見なかったら酷い顔も気にならねぇだろうが。」

「えー、だって忘れられないほど酷い顔してるぜ?もとから酷いのに。」

「黙れ白髪。」

「ちょっ!白髪じゃないっつーの!銀髪!」

ああ言えばこう言う。一向に終わりを見出だせない意味のない会話。そういえば総悟といると、ほとんどこんな会話しかしてなかったな、とか思ってしまった。今はあいつのことを考えないようにしているのに、どうしようもない。

「そうそう、今日合コンなんだけどさ、大串くん来る?来るでしょ?むしろ来い。」

白髪天パはこの場を去るつもりがないらしい。落ち着いた様子で、取り出したキャラメルの包みを破いた。

「なんで最後命令口調なんだよ。誰が行くか。」

死んだ目のままでキャラメルを味わう白髪天パに言い返す。こんなつまらなそうに食べられるなんて、キャラメルも可哀想だ。

「だってさ、大串くんが来るよって言って可愛い女の子呼んでるんだもん。」

「勝手なこと言うのが悪い。おまえの為にそんな面倒な所行くのはごめんだ。」

きっぱりと断ると、そいつは情けなく眉を下げた。

「本当に女の子のレベル高いよ。大串くん彼女いないじゃん。」

「彼女はいないが……興味ねぇな。俺抜きでレベル高い女の子と遊んできたらいいじゃねぇか。」

「恋人いないのにそんな固いこと言ってると一生独身になるぞ。」

「恋人ならいる。」

そう答えると、白髪天パは一層眉を下げて、意味わかんねぇと呟く。意味わかんねぇのは俺だよ。合コンくらい行ってもバレないのに、やっぱり頭に浮かぶ総悟の姿1つで行く気がなくなるのだ。
さっきまでは考えないようにしていたくせに、急に声が聞きたくなった。

「俺、用事あるから。」

乱暴に話を終わらせて、背を向けた。後ろからは諦めの悪い言葉が聞こえる。
通話履歴から探すよりも、電話帳で探した方が早く見付かるだろう。しばらくかけていなかった番号に、繋げた。少し長めに呼び出し音が鳴った後に、声が聞こえる。

[はーいもしもし。]

「久しぶりだな。」

[……土方さん?]

ディスプレイの表示を見ていなかったようだ。総悟は、高い声を出した。

「な、なんか……な。用事は特にねぇんだけど。」

今更、何を言ったらいいのか分からなくなって言葉を濁す。ふいに携帯電話の向こうから、咳き込むような、嗚咽をこらえるような、とにかく余裕のない総悟の様子が伝わってきた。それに気付いた途端、俺も余裕がなくなって、涙腺が緩んでしまったのだ。

格好悪くて仕方がなかったけれど、電話をしてよかった。



寂しいと言えない

あと少し、あと少し、