限界が、近付いている。 そもそも俺は、本質が内向的にできているのだと思う。人見知りとか、そういった要素は皆無なのだが。同じクラスの奴等と仲良く楽しくしたいという願望はないし、周囲から良く思われたいとも思わない。1人なのは構わない(1人じゃない方が飽きないけど)。 だからこそ、特別な人への執着が強いのだ。辛うじて今まで耐えてきたけど、限界が近付いていた。 電話で喋れる。写真で見れる。けれど、それじゃあ誤魔化しがきかなくなっている。 「そーちゃん、おかえり。」 俺の姉は、喘息持ちだ。 いつかは絶対に楽をさせてやるとは思っていても、こうして高校に通い、部活までできるのは他でもない姉のお陰だ。最近は身体の調子がいいみたいで、働きに出ていることが多かった。 「お姉ちゃん!帰ってたんですかィ。」 「今日はバイトを早めに終わらせてもらったの。」 にっこりと笑うお姉ちゃんは、きっとどんなに着飾った女よりも綺麗だ。 「言ってくれたら急いで帰ってきたのに。」 「ちょっとやりたいことがあったの。」 ちゃんと手を洗ってね、と付け足したお姉ちゃんの言うことをちゃんと聞いてから、リビングのドアを開く。ふわりと甘い香りが鼻をついた。珍しく中身が詰まった学生鞄をぽーいと放り投げたら、何かが割れる音がした。きっと、幾つかはクッキーの類いなのだろう。 「はい、そーちゃん。今日は特別な日だから。」 2月14日。たった今気付いたような顔で、俺は丁寧に包装されたチョコレート(少し辛そうな色をしている)を受け取った。 「ありがとうございますお姉ちゃん!嬉しいっス!」 「喜んでもらえてよかったわ。今日は晩御飯も作ってあげられるから、お部屋でゆっくりしといていいのよ。」 「そうですか。じゃあ一眠りしてきやす。」 「うふふ、そーちゃんはよく眠るわね。」 可笑しそうに口に手を添えて笑う姉に笑い返して、二階に上がった。 朝から帰り道まで、ひっきりなしに貰ったバレンタインの贈り物。直接やって来た子のは断ったけれど、机に置かれているものを受け取らないのは悪い気がして。 姉から貰った辛そうなチョコレート。これだけはちゃんと食べよう。 「…………」 いつだったか、彼にもバレンタインにチョコレートを貰ったのを思い出す。10円のチョコレートとマヨネーズが、ビニール袋に入っていた。あの時は笑えたけど、今求めているのは、そんな馬鹿げたものだった。 限界が、近付いている。 バレンタイン 土方さん、会いたいです。 |