自慢ではないが、真選組は戦闘専門の集団であるので、生きていく上での一般知識は極めて少ない。 自慢にはならないのだが、一般知識を必要とする日常生活においての仕事は、女中と呼ばれる職業の人間に任せきりだ。 自慢からは程遠いのだが、俺達の生活は、女中がいないと成立しない。 そして女中は、現在、ボイコットを決め込んでいる。 「ふっくちょおおおおお!」 時刻は午前5時。副長室に駆け込んできた監察、山崎退から、まさに波乱万丈の日々は始まった。 その山崎は、見た。副長室の布団で眠たそうに目を擦る、隊長の姿を。知らなかった訳ではない。一番隊隊長沖田総悟と副局長土方十四郎は、そういう関係だ。 「なんでィ、ザキ、俺に用でもあるんですかィ。」 「山崎、無視していいぞ。」 「は、はい…あのですね、実は今さっきこんな紙が…」 「紙だァ?脅迫文か。」 「いえ、それが…」 《もう私達、やってられません。実家に帰らせていただきます。》 スーパーの広告の裏に、鉛筆で書かれたその文字。土方も沖田も、意味が分からずに首を傾げる。 「山崎、まさか嫁さんがいたとは案外隅に置けませんねィ。」 「違いますよ。この書き置きを残して、女中が見事に全員消え去ってます。」 「……女中が?おい、それは確かなんだろうな。」 「もちろん。彼女達の荷物も全てありません。人質かとも思いましたが…」 「なーるほど。それが真選組の女中であるメリットはないってわけで?」 「はい。」 若干寝ぼけた頭ではあるが、両者共事態を理解したようだ。 土方と山崎は顔を見合わせ、無言で冷や汗を流す。対して沖田は、なぜそこまで深刻になる必要があるのかという表情だ。 「んなもん、そこら辺から適当な奴を拐ってきたらいいじゃないですか。」 「馬鹿、信用のおける奴が外部にどれほどしかいないか考えろ。」 「あぁ〜…」 「……で、どうします?」 そう、真選組での日常は、このときから変わり出したのだ。 「と、いうわけで。」 朝の真選組幹部会議。ざわつきがいつもより目立つが、土方は特に咎めなかった。 「女中がいない間は、役割分担をして、全員でカバーすることにした。」 「えええ!副長、俺、炊事洗濯とか全くできませんよ!」 「俺もです!」 「つーかできる隊士なんていないだろ。」 「うるせぇ黙れ!決定事項だ!期間は分からないが、これを屯所の食堂に掲示しておく。毎日右に回すから、それぞれ確認するように。」 不満の声を怒鳴って静め、土方が取り出したのは、誰もが一度は見たことがあるであろう当番表。真ん中に丸い紙がくるくると回るように留められており、それを回すことによって役割がローテーションされていく。 「文句あるなら今この場で言うように。」 「…………」 「…………」 「…………」 例え文句があったとしても言えないような鋭い眼光で土方が全員を睨む。 「……質問、いいですか。」 その中で手を挙げるという勇気に満ち溢れる行動をしたのは、山崎。 「なんだ。」 「局長と副長は、どの隊にいかれるんですか?」 「近藤さんは一番隊、俺は二番隊だ。」 そこで、またしても手を挙げたのは、沖田。 「はいはーい。土方さんは一番隊にしてくださーい。」 「は?」 「一番隊はとりわけ馬鹿が多いのに、近藤さんがきたら大変なことになると思いやーす。」 その会議の出席者、皆が思ったであろう『あんたが副長といたいだけだろう』の言葉は、誰一人として口にすることはなかった。 「そ…そうか?別に構わないが…異論はないか?」 今度はなにも気付いていない土方の代わりに、沖田が全員を睨む。もちろん、居合わせる者はぼそぼそと賛成を呟くはめになるのだ。 事の発端 (さてはて、どうしたものか) |