まさか自分が。たった1人のアパートで、虚しく紅白歌合戦をみる年越しがくるとは、思いもしなかった。 こんな日に限って暇でなくてもいいのに、こんな日に限って暇なのは事実である。一年が終わる実感が湧かないのでとりあえずみかんの皮を剥いてみるが、ささむくれに染みるだけだ。 「……あいつ、寝てるんだろうな。」 分かりきっていても、土方は滅多に自分からかけない電話番号を携帯の着信履歴から探した。 何度か呼び出し音が鳴って、電話が繋がる気配がして、暫くしてから鼻を啜る音がした。 [……………。] 「おう、起きてたのか。」 第一声、何を言えばいいのか分からずに適当なことを口にすれば、もう一度鼻を啜る音がした。 [……いま起きやした。] いつもより若干低い声で、総悟が答える。 「そっそうか。悪いな、寝るなら切るけど。」 [いえ、あとちょっとで年越しだから起きときます。珍しいですね、あんたから電話なんて。] 「暇なんだよ。」 [寝たらいいじゃないですか。] 「眠くねぇ。」 [ふーん、まぁまだ11時ですしね。] 「おまえは寝てたけどな。」 [俺はいつでも眠いんでさァ。] 「知ってる。」 携帯の向こう側で、大きなあくびをするのが聞こえた。 [あっ、紅白見るの忘れてた。土方さん見てます?] 「今テレビでやってる。」 [おもしろいですか?] 「紅白におもしろいとかあるか。別に好きな歌手とかいねぇからなぁ…」 [確かにそうですねィ。] 「おう。」 [……………。] 「……………。」 特に話すこともなく、沈黙が流れる。電話での沈黙ほど気まずいものはないが、俺は大して気にせずにみかんを口に放り込んだ。総悟も、電話が繋がっているのを忘れたかのように、ひたすらCMソングを口ずさんでいる。 そういえば年越し蕎麦食ってねぇな、なんて思っていると、テレビの出演者たちがカウントダウンを始めた。部屋の時計を見れば、すでに0時3分を差している。どうやら狂っているようだ。 除夜の鐘が、遠くから聞こえ始めた。 「あけましておめでとう、だな。」 [え?……ほんとだ、知らねぇうちに年越してらァ。] 「おまえずっと歌ってただろ。」 [ねぇ、俺、除夜の鐘って初めて聞きました。] 「まじかよ。」 [まじ。毎年、年越し前に寝てるんで。] 「……なんか俺、こっち来てからの方がおまえのこと知る機会が増えた気がすんだけど。」 [そういや、そうですねィ。] 少し可笑しそうに総悟が笑って、遠距離ってのも悪くないと、その場限りなことを思った。 年越し (うわ、受話器越しに年越しだなんて、恋人みたいでさァ!)(……本当に馬鹿だなおまえ。) |