このまま俺は死んでしまうのだろうなぁと、らしくもないことを思った。 整いすぎたこの部屋は、生活感がない。落ちているのは、きっと微生物くらいだ。髪の毛一本、食べかす一つ、この部屋には落ちていない。綺麗だと感心するより、目の前の男は本当に人間なのだろうかと、不気味になる。 どうせ死ぬのなら、もう少し自然を感じられる場所がいい。欲張りを言うと、死にたくなんて、ないのだけれど。だけどそんなこと、目の前の男は許してくれない。意地でも俺を殺したいようで、鋭い眼光で俺を睨む。 やめろ、やめろ……。これからおこることを想像して、体の震えが止まらなくなる。俺の精神は、思っていたほど強くはなかったらしい。 「誤解を生む表現をするな。」 土方さんが苛立った声で言った。手にはシャーペンを握っている。 「あぁぁぁ、こんな課題終わるわけがねぇ!それを終わらせろなんて、土方さんはやっぱりSだったんですね!」 「誰がSだ、ドS!そもそも課題溜め込んでたのは自分だろ。手伝ってやってんだから感謝しろ。」 おきたそうご、と書かれた(俺が書いた)ノートに、土方さんが数学の問題を解いていく。俺は昔から数学だけはどうしてもできなくて、代わりにやってくれているのだ。あんまり甘やかしちゃ駄目ですよ、と注意してみたら、じゃあ自分でやれと言われた。 俺の前にはこれもおきたそうご、と書かれたノートがあるのだが、開かれたページは未だ真っ白である。俺は昔から英語だけはできるので、これくらいは解けと指令された。だが、できるとは言っても成績は平均ギリギリで、決して得意なんかじゃないのだから、ハイレベルと題されたこの問題集が解けるわけない。 「あい、うぃる、そ、せ、」 「まずはそのローマ字読みやめろ。」 「あい、きゃんと、のっと、ローマ字よみ。」 「……ローマ字読みをしないことはできない?」 「いえすいえす。」 親指を立てて付き出したら、深い深いため息が返ってきた。notが被っているだとか言っているけど、意味が分からない。 「まじで中学からやり直せ。」 「土方さんもやり直しましょう。」 「なんでだ。俺はこの課題、提出日に提出したんだからな。」 「提出日?」 「先々週の月曜日。」 「なんで教えてくれなかったんですかィ!」 「何回も言っただろうが!……とにかく、おまえの卒業を案じてわざわざ最終期限を言い渡してくれたんだから、やるしかねぇよ。」 卒業っていうか…俺の未来はどうなるんだろう。フリーター?ニート?あれれ、小さい頃の将来の夢はヒーローだったのに。 すらすらと数式を解いていく土方さんを見て、俺もがんばろうと問題集と向かい合う。 「えー…すとらいぐふと…ストライク!」 「馬鹿!ストレートだろ、そんくらいちゃんと読め。」 「………勉強なんて、ちっとも面白くねぇ!」 「俺だって面白くてやってるわけじゃねぇんだよ。」 「……………」 ぶすっと不貞腐れて机に上半身の体重を預ける。 「寝るんじゃねぇぞ。」 どうしよう、このままだと俺は大学に入る前に高校から追い出されてしまう。大体、俺が高卒危機なのに土方さんが大学に進むなんて絶対にイヤだ。むかつく。がんばるって言っても俺は基礎からてんで駄目だから……。 「そうだ!」 「あ?勉強する気になったか。」 「一緒に中学からやり直しましょう!」 「なんでそうなる…」 あたまがわいた |