パァンッ───…… 渇いた銃声は、まさに今、土方の目の前で発されたものだ。 むやみに発砲することを嫌う沖田が、珍しく引き金を引いた。近所迷惑だ、通報されたらどうする、そう土方が注意をしても、素知らぬ顔で手の中の人殺しの玩具を弄くる。 「めいちゅーう。」 「こんな近かったら素人でも当てるさ。」 中身が入ったままの缶ジュースが、畳に溢れだしている。あれを掃除する羽目になるのだって、俺じゃないか。 「完全犯罪なんざ、非道でさァ。」 「知ってるか、人殺しは非道だ。」 どうやら沖田は、女性アナウンサーが告げる、殺人事件に嫌悪を抱いて発砲したらしい。 見事な完全犯罪に警察はお手上げ状態だと深刻そうに、不自然な程光るリップが滑舌よく喋る。犯罪に見事もなにもあるのだろうか。 「殺すんなら、正々堂々殺しやがれってんだ。こそこそしてんじゃねぇや。」 「こそこそと偽の戸籍でアパートに住んでる俺らはどうなんだ。」 すると沖田は、俺はいいんでさァ、と理屈にならない屁理屈を抜かした。理屈にならないが、俺にもなんとなく分かる気がした。 俺達は、俗に言う「殺し屋」で生計をたてている。自慢ではないが(自慢になんてならないのだ)、ターゲットだけを確実に殺し、決して行方がつかまれないように逃げることに対し、それなりの自信を持っている。 今までにたくさん殺してきたが、俺達は必ず拳銃を使った。遠方攻撃はしない。それでも拳銃を使うのは、沖田が頑なに、殺し屋は拳銃で堂々と殺すべきだと言い張るからだ。何度も言うが、人殺しに堂々もなにもない。 「たとえば、今、」 ロックが解除されっぱなしの銃の先を覗きながら、ふいに沖田が言った。危ないだろ。こいつは俺をひやひやさせることにおいては達人だ。 「今?」 「俺がこの玩具であんたを撃ち抜くつもりだって言ったらどうします?」 「どうっておまえ……なんだ、まさか本当に、」 「たとえば、ですよ。」 俺を安心させるようにロックをかけ、ぽーんと拳銃を投げた。だから危ないって。 「説得する。俺を食べても美味くねぇぞって。」 「誰もマヨネーズ星人を食べようなんて思いやせんぜ。」 「……俺を殺してどうするんだって聞く。」 「なるほど、やっぱり土方さんには自分の拳銃で殺られる前に殺るって選択肢がないんですね。」 「たとえば、の話だろ?おまえには俺を殺す理由も意気地もない。」 「そうですねィ。あんたにも俺を殺す意気地はねぇけど。」 「どうだか。」 どちらにだってお互いを殺す意気地がないことくらい分かっている。それでも負けじと言い返すのは、どちらも負けず嫌いだからだ。 「殺すことはできても、殺されたくはねぇや。」 「誰だって同じだ。」 「そうじゃなくて。あんたを殺して虚しいのは俺だけど、俺を殺して虚しいのはあんただから。」 「……それもそうだな。」 同意すると、沖田は得意気に笑う。その笑顔のままで、俺を埃だらけの畳に押し倒し、小さな声で囁いた。 「だから、死ぬときは一緒……ってやつでさァ。」 下らねぇと笑い返してやれば、どちらからともなく2人は口付けを交わすのだ。 埃のにおいと殺し屋 |