「沖田さん、呼ばれてますよ」 昼休みに睡眠をとっていると、山崎が俺の机を揺らして言った。なんだかムカついたから殴ってやろうとも思ったが、俺は器の大きい男なので止めておく。 「誰に?」 「えっとー、確かC組の松原さんっていったかな。」 「そいつが誰だって聞いてんでさァ。」 「だから、その子が呼んでますから、直接聞いてくださいよ。」 「……めんどくさい。」 それに今俺は、眠くて気分が悪い。ため息をついて立ち上がると、山崎は気の毒そうな目で「松原さん」を見た。 廊下に出ると、なるほど見たことのあるような女の子が立っていて、俺を見付けると背筋を伸ばして俺の名前を呼んだ。 「沖田くんっ。」 「あぁ、松原さん。」 まるで最初から彼女の名前を知っていたかのように返事をする。松原さんは嬉しそうに笑った。 「あのね、ちょっと話があるんだけど、いいかな?」 ここまで出てきて、今は君の話を聞く気分にはならない、なんて馬鹿なことを言う奴がいるのだろうか。 「へい、どうぞ。」 「……私、入学した時から、沖田くんのことが好きなの。」 「……そうですかィ。」 「よかったら、付き合ってください。」 「すいやせん、部活も忙しいんで、これからも友達としてよろしくお願いしまさァ。」 別に松原さんが友達だと思ったことはないけど。俺が人生で成長したのは、身長と、相手を傷付けない男女交際のお断りの仕方くらいだ。でも、松原さんは十分悲しそうな顔をして、これからもよろしくねと呟いた。 教室に入る。鬱陶しいクラスメイトが聞きあきた台詞で冷やかしを飛ばしてくる。それを適当にやりすごし、自分の机に戻った。何故だか、山崎もすぐそばの椅子に座る。 「最近、やけにモテモテですね。」 「だまれ死ね。」 「なんでか分かります?」 「だまれ死ね。知らない、なんででさァ。」 得意気な山崎が気に食わなかったが、その得意の先には興味があったので聞いた。 「もうすぐクリスマスだから、焦ってるんですよ。女の子たち。」 「……へー。」 くだらない。得意の先には何も無かった。精一杯どうでもよさそうな顔をしてやったのに、山崎はなぜか誇らしさを浮かべている。 「……反応薄いですね。」 「山崎の発言に相応しい反応をしただけでィ。」 くだらない。自分が参加できないクリスマスなんて。 惨めだとか、そんなんじゃなくて。ただ、会いたいなぁとか、思ってしまうから。 クリスマス きっとあの人には、まだ会えない |