こどもの日 | ナノ



玄関のドアを開けると、いつも通り安っぽい音をたてた。部屋の空気を吸い込んだ途端に1日の疲れが溢れ出て、眠気が倍増になる。

「あ、」

何故か卓上にケータイが置いてある。またやってしまった。そういえば今日、ケータイを目にしなかったはずだ。それに今気付くとは我ながら呆れてしまう。恐る恐る電源をつけた。メールを問い合わせると、……20件の新着。怖い。そして想像通りだ。3件が宣伝で、17件が総悟からだった。

以前も充電が切れてメールの返事ができなかった時、呪いのメールかと思うほど総悟から届いていた。もう迷惑メールだ。内容だって呪いそのものだし。

とりあえず全部読んでから削除しようと決めたところで、チャイムが鳴った。

「はい。」

安っぽいドアをたてて外を覗くと、宅配便の従業員らしき男が立っていた。

「こちらに捺印もらえますか。」

「あぁ、分かりました。」

玄関の棚に放置してあった判子で捺印し、荷物を受け取る。差出人の名はない。再びリビングに戻って机に箱を置く。差出人の名はなくとも、誰からかはすぐに分かった。これは総悟の字だ。

土方とーしろー

なんてふざけた宛先を見て思う。相変わらず土方の土が士みたいになっている。…メールの前に開けてから電話するか。
カッターでガムテープを切り、箱を開ける。と。

「え、マヨネーズ?」

ころんとマヨネーズが1つ、入っていた。意味が分からなくてもマヨネーズだと嬉しい。たまにはいいことするなぁ、とか思いながら電話をかける。

[はーい、土方さん?]

「おう。荷物届いた。」

[そうですかィ。つーかあんた、またケータイ家に忘れてたでしょう。]

「そうだけどな…迷惑メールいい加減やめろよ。」

愉快そうに笑った総悟に言う。

[でも今日はまだ愛がこもってやす。読みましたか。]

「いや、まだ。」

[なんだ、早く読んで下さいよ。じゃあ切りますんで。]

「ん。またな。」

素っ気なく終わる電話はいつものことだ。お互いあまり自分の近状を話したりしない。何故かは分からないが。

最初に着ていたメールから見てみると、無題で本文には「お」の一文字。なんだあいつ、何が「お」だ。次のメールを見ると「た」。なるほど、これはきっと全部合わせて文が完成するんだ。暇な奴だな。

「お、た、ん、じ、ょ、う、び、……あ?お誕生日だ?」

途中まで読んでカレンダーを見る。

「…5月5日って、俺の誕生日じゃねぇか。」

やばい。すっかり忘れてた。つまりあのマヨネーズは誕生日プレゼントか。

「えー…お誕生日…お、め、で、と、う、ご、ざ、い、や、す…!あいつ!」

なかなか可愛いところもあるんだな…!しばらくケータイを片手に感動していた。



マヨネーズが辛子マヨネーズだったことも、あとから誕生日プレゼントにマヨネーズはないだろと知り合いから笑われることも、この時は知るはずもない。

(誕生日にマヨネーズなんて完璧のプレゼントだと思う)