七夕 | ナノ



今日は七夕だ。
つまり、明日は必然的に7月8日になる。つまりつまり、明日は俺の誕生日。小さい頃よりは特別な気持ちにもならなくて、なんかつまらないなーなんて思う。

ちなみに俺は、あることをひとつ予想している。そしてそれは、絶対に当たる。
土方さんは、8日になった瞬間の0時にメールを送ってくる。
律儀な男なのだ。別に俺が自意識過剰なのではない。ただ、そういう男だから、言い切れる。絶対に当たる。

そんな予想をしながら、ベッドに寝転がって目を閉じた。今日も部活で疲れた…。やばい眠いな。ちらっと時計を見たらまだPM10時だった。この時間に寝たら、寝過ぎて明日、余計に眠気が増すという悲劇に襲われる。
まぁ…ちょっと寝て、すぐに起きよう。それでいいや。

が、やはり。

こういう時はちょっとで目覚めないのがお決まりだ。はっと気付いて時計を見ると、AM5時。やってしまった。今日は朝練もないし、暇だ。山崎にでもモーニングコールして嫌がらせしてやろうじゃないか。枕元の携帯電話に手を伸ばして開く、と。

「あぁ、そっか誕生日だ。」

この数時間で、忘れてしまっていた。幾つかのおめでとうメール(その80%が女子であった)を読み飛ばし、「マヨラさん」からのメールを探す。途中で不在着信の通知があったので開けて見てみると、それはマヨラさんからの着信であった。
確かにマヨラ…土方さんは電話派だった。自分の予想が外れたので地味に悔しい。この時間だと寝ているかもしれないが、一応かけなおしてみた。

プルルルル…プルルルル…プルルルル…プルルルル…

「……早く出やがれ土方。」

プルルルル…プルルガチャッ

[あいもしもし土方…。]

完全に寝てましたって声だ。

「あいもしもし愛しの俺でさァ。」

[…総悟?……あ、そうだてめー、しつこく電話したのに出なかっただろ。]

「熟睡してました。すいませんねェ、折角土方さんが誕生日おめでとうコールしてくれてたってのに。」

[図々しい奴だな。]

「だってそうでしょう?」

[…そうだ。]

「最初に祝って欲しかったんで、他の奴からのメールは読み飛ばしたんですぜ。」

[そうかそうか。]

まだ少し眠そうな口調で、土方さんが言う。そして、思い出したように繋げた。

[そういやあ多分夕方頃、荷物届くと思う。]

「やった!プレゼントですか!?プレゼントでしょう!」

[本当におまえ図々しいな。]

「もしかして液晶テレビですかィ?地デジ?3D?」

[え、もしかして地デジ化してねぇの?]

「しましたよ。貯金全部遣って、姉ちゃんの誕生日に。」

[俺より貯金あったんだな。]

「だてにバイト少年やってないですから。」

久しぶりに話した。いつも用件だけ伝えてはすぐに電話もメールも途絶えていたから。
面倒だけど、話してみるとすごく懐かしいもんだ。

[ってか液晶テレビなんか期待すんなよ!?そんなに金持ちじゃねぇし。]

「分かってますよ。ドラム式洗濯機で我慢してやりまさァ。」

[ったく、勝手に言っとけ。]

「……で?」

[は?何が?]

「まだ俺、祝いの言葉もらってませんが。」

[あー…そうだな。]

電波に乗せて伝わる声が濁る。

「ほら言えよ土方ァ。らしくねぇけど言ってみろよー。」

どうやら恥ずかしがっているようなので、からかってやる。

[い、言ってやらァそんくらい!]

「じゃあ早くー。」

[お、おう…]

「…………」

[…………]

「…まったくまじでヘタレだな土方。さすがヘタレティック星の王子だな土方。」

[ヘタレティック星とか作んな!つーか呼び捨てやめろ。]

「ほら早く言ってくだせェ。」

[………た、]



あんたの言葉ひとつで
今日の俺は幸せ者だ


(…誕生日、おめでとう。総悟)(ん、すいやせん。電波悪いみたいでさァ)(てめー…!)