カチカチカチカチ 隣で歩く沖田さんは、ずっと携帯を触っている。 俺、山崎退は彼のクラスメイトであり、部活も剣道部で同じだ。中学からなにかと一緒にいるのに、何故「沖田さん」呼びかと問われれば答えは簡単だ。簡単すぎて誰も問うてくれない。沖田さんは何か怖いからだ。ヤンキーではないのに先生からやたら目を付けられているし、なによりSだ。ドSだ。呼び捨てなんてできない、怖い。 カチカチカチカチ 誰かにメールでもしてるんですか、なんて聞かなくても判りきっている。彼は遠くに恋人がいるのだ。俺達は高3で、相手は1つ歳上。 「チッ…土方の野郎、またブチりやがった。」 そう、彼は土方という。ちなみに男だ。沖田さんも男だ。なんなんだその関係という所には触れないでおこう。それを触れるにはあまりに真っ直ぐな人達なんだ。 「忙しいんですよ、きっと。勘弁してあげて下さい。」 「そうだねィ。嫌がらせメール50通送って、勘弁してやろう。」 「えー…」 若干引いたのは、そう言った沖田さんが妙に楽しそうであり、本気で送るつもりでいる顔をしていたからだ。この人ならばやりかねない。というか普通にやる。 彼の逆鱗に触れたときのことを思い出して背筋が凍った。あろうことに俺が大事にしていたミントンラケットを粉砕したのだ。字の如く粉々だった。ちなみにこれはクラスの日常茶飯事だと噂されている。あ、誰も俺がなんで剣道部に入ってるのか聞いてくれないんだね。まぁいいけど。 「土方さんとはどうですか?」 「どう?別に普通でィ。」 「上手くやってるんですか。」 「あー、向こうが浮気してなかったら上手くいってる。」 「してないでしょ、あの人に限って浮気なんて。」 「どうだか。」 もししてたら俺が殺しに行ってやらァ、と笑った沖田さんは、言葉とは裏腹に土方さんを信じきっているようでつい笑みが溢れた。 そんな日常 遠くたってそんなあんた達を 見ていると優しい気持ちになるんだ |