隻眼の男の遊び | ナノ



俺はつい、笑ってしまった。
金髪をお洒落なかんじに流したお兄ちゃんや、はたまたスキンヘッドのお兄ちゃん。やけに老けて見える奴らだが、俺はこう見えても高3なので制服を着ているこいつらは同い年だ。
揃いも揃って金属バットなんかを持っていて、俺を囲んでいる。
ふざけんなよ、俺の昼寝を邪魔しやがって。

「おいてめーら、何の用だァ?」

隣に立つ高杉が言った。
そもそも何故、俺と高杉がこんな長閑な河原で2人、不良共に囲まれなければならないのだ。学校をサボって、昼寝をしていただけなのに。俺は全く悪くないはずだ。

「その左目……銀校の高杉だろ。それにおまえは沖田だ。」

「銀行?高杉ィ、今時は高校生でも一般企業でバイトができるんですかィ。」

「いや、俺はいつも面接で落とされるからバイトなんざやらねぇ……人違いじゃねぇか?」

貧乏学生仲間の高杉に尋ねれば、彼も訝しげに首を傾げている。すると、メンチをきっていた金髪が声を荒げる。

「銀魂高校だ!なんで自分の高校の呼び方も知らねぇんだよ!」

「銀魂高校…あぁ、略して銀校!」

「なるほどな……最近の言葉にはついていけねぇぜ。」

それにしても銀校は無理があると思うのだが、若者の考えることは分からない。
まだ眠気の残る頭を使ってだらだら会話していると、流石に相手も苛立ってきたらしく、空気は更に凍てついていく。

「高杉、おまえにやられた仲間は数えきれねぇんだよ……最近は大人しくしてるが、そのまま怨み辛みも消えるなんて都合のいい話はない。」

「えー、じゃあ俺、滅茶滅茶とばっちりじゃん。だから素行の悪い奴と関わりたくなかったんでさァ。」

「まじかよ沖田、見捨てるつもりかよ友達を。」

「いつ友達になりやしたっけ。という訳で、俺は見逃してくだせェよ。オニイサン。」

「ひどい奴だ…友達だと思ってたのは俺だけかよ。」

だらだらと冗談を交わす。しかし金髪のイライラは現在進行形で募っているようだ。

「つーか、俺らは沖田にも恨みはあるんだよ。」

「まじでか。」

「いきなり竹刀で叩きのめされたってダチが言ってたぜ。コンビニの前でたむろってただけで。」

「あぁ……姉上のことを下品な目で見てたからでさァ。よからぬことをする前にと思って。」

「よっ、流石シスコン!」

「うるせー。高杉は黙っとけ。」

仕返しとばかりにからかってくる高杉の足を踏む。

「すまねぇが、俺はこのシスコンとは友達じゃないから見逃してくれよ。」

「だからっ!おまえら2人に恨みがあるんだ!二度となめた口きけねぇようにしてやるよ。」

じりっと、距離が縮まる。どうやら見逃してくれ作戦で見逃すほど馬鹿でもないらしい。

「仕方ねぇ…言っとくが俺は強いですぜ。」

「はっ、そんな可愛いお顔してよく言えるな。」

「あ?まじでぶっコロス!」

「ククッ、沖田の地雷踏みやがった。」

不敵な笑みを浮かべながら、高杉は自らの眼帯に手を伸ばした。周りの不良共がざわつく。

「な、なんだおまえ…」

「ふっ…この眼帯の下を見て、生きて逃れた奴はいねぇよ。」

「うわ、高杉その技使っちゃうんですかィ。こりゃあ地獄絵図が思い浮かびまさァ……この前なんか……」

高杉の眼帯は、アクセサリーのようなものだ。普通に健康な視力らしい(そう言われてみれば、たまに眼帯を右目につけてる日がある)。
それを知っていながらも、俺は相手の不気味そうな表情が可笑しくて、適当に話を合わせる。

「沖田も好きだなァ…あの真っ赤に染まる景色が。」

大嘘が自分でも面白いようで、高杉は楽しそうに笑うのだが、奴等からすれば気が狂った笑顔に見えるのだろう。

「今日は人数も多いし、この河原が綺麗に染まるんでしょうね。」

「折角だし沖田も本気出したらどうだ?あの竹刀、持ってんだろ。」

「え?あ、そうですねィ……ここんとこ、この竹刀は封印してたんですが。」

「確かにすげえ威力だけどよ。やっぱりたまには肉の感覚味わわないといけねぇよ。」

「久しぶりに暴れるとしやしょうか。」

鞄の横に転がっていた竹刀を掴む。
これは学校のものなのだが、奴等の目には謎の兵器に映っているのかもしれない。
何が封印だよ…自分の竹刀折れたから借りてるだけだっつーの。高杉の中二病がうつったか。
……アクセサリー眼帯でも、ぼろい竹刀でも、こいつとならチョロいもんだ。

「楽しいパーリィの時間だぜ、沖田。」

「あ、それは土方さんの台詞でィ。」

「ほっとけ。」

ちらりと目を合わせてから、俺達は草を蹴って踏み出した。



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