そいつはどう見たって不良だった。 学ランの下は普通の奴なら手にもとらないくらい派手なワインレッドのシャツだったし、目付きはすこぶる悪い。 けれど俺は、だからといって嫌いにはならなかった。勿論大して興味なんてもんもなかったのだが、なんだかんだで喋っているうちに、俺と高杉は友達という関係になっていたらしい。 外は暑い。 店に入れば少ない小遣いは消えてしまう。だから、誰もいない高杉の家でだらだらしようという結論になった。 蝉の鳴き声がうるさい。 「あ、やっべ。明日提出の課題、学校に忘れてきちまった。」 俺が呟くと、高杉はどうでもよさそうにジャンプのページを捲る。 「沖田のことだから忘れてなくてもやらねぇんだろ。」 「だまれ馬鹿杉。」 「てめっ誰が馬鹿杉だこらァ。」 読んでいたジャンプを置いて、高杉は睨んでくる。左目は包帯に覆われていて、右目からビームが飛んできた。 「うわ、目付きわるー。どこぞのマヨラーじゃねぇんだからやめろィ。」 「目付き悪いのは生まれつきだボケ。」 「あーあーあーそりゃ可哀想なこった。」 「黙れ。万年女顔。」 「あん?万年なのは当たり前だろィ。日替りで顔変わってたら疲れんだろーが。」 「いやそこ突っ込むか。」 「つーかさァ……」 ふと思って高杉をじっと見る。たじろいだように右目が揺れた。 「な、なんだよ。」 「高杉のその左目って、やっぱ喧嘩ですかィ。」 こいつのことだから喧嘩だろうと思っていたが、高杉は首を振った。 「いーや、喧嘩じゃねぇよ。」 「え、じゃあ何。事故?」 「俺がそんなどんくさい男に見えるか。」 見える。と思ったのは口に出ないでおくと、奴はこう言った。 ─なんか格好いいかと思って。 「はあ?」 「だって、よくあるだろ。漫画とかで隻眼キャラ。」 「なら、その左目は。」 「普通に見えるし。」 「やっぱお前馬鹿だ。馬鹿杉だ。」 呆れと妙な失望をため息で吐き出すと、高杉がなんでだよと言っていた。おい誰だ、こんな馬鹿を隻眼の破壊王だとか言った奴は。 隻眼の下の秘密 |