彼はこう言っていた。 ──俺は不死身なんでさァ。そりゃ、壊そうと思えば壊れますがねィ…。普通の人間として、死が訪れることはねぇ。 急に暑くなりだして、袖の短い服でないと我慢できないような季節の始まりだった。 あの時はきっと、暑さで頭がやられていたんだろう。馬鹿みたいにSFなそいつの存在を、俺はすぐに受け止めた。 沖田総悟、18歳。ドSなくせに打たれ弱い(彼曰く、ガラスの剣)。恐ろしく整った顔は、意地悪く笑うことも、優しく笑うことも可能だ。 そこまで人間臭いのに、総悟はロボット。ロボットなんて呼び方じゃ足りないくらいに、人間に近い。感情も備え付けられている。 けれど、俺と総悟はどうしても越えられない溝がある。「不死身」という事実は、それほどまでに大きなこと。 地球最後の日。現実的ではない。少なくも、俺にとって地球最後の日とは現実として考えにくい。 しかし、それを言ってしまえばお仕舞いだ。自分が小学校を卒業する時も実感はなかった。それと同じような現象なんだと思う。 つまり、地球の最後は確かにすぐそこまで近付いてきている。 「土方さーん、」 隣で寝転ぶ総悟が言った。 腰掛けたままの俺は、少し見下ろす形で総悟に目をやる。 「どうした。」 「土方さんは、怖いですかィ?それとも、寂しい?」 何が、怖いのか。何が、寂しいのか。そんなことは聞かなくても分かる。 今まで見た中で、限りなく安らかな表情を浮かべた総悟が問う。今まで、とは言ってもこいつに会ったのは夏の始まりだから、まだ1ヶ月少々になるが。 「怖くはない。まだ信じられねぇ。寂しくも……ない。」 総悟は目を丸くして、俺を覗き込む。そして、それが嘘ではないと読み込んだらしい。 こいつは、人の嘘を見破るという厄介な機能も持ち合わせている。 「みんなビビって逃げてんのに、さすが土方さん。」 「馬鹿にしてんだろ。」 「あれれ、バレちゃいました?」 「チッ…つくづく腹立つ野郎だ。」 舌打ちをして睨めば、愉快そうに笑った。 ──俺はね、生きてなんかないんですよ。周りは、羨ましそうな目で俺を見ますがねィ。死ぬことはないのに、生きることができる訳がないんだ。 総悟はたまに、「死にたい」と口にすることがあった。 自らを壊すことはできるが、それは彼の言う「死」ではないらしい。 病気でも事故でも、なんでもいいから、死を実感したい、と。その上で生きてみたい。俺にはできないけれど。…そう言った。 「あと何分ですかィ?」 「あー?……8分、だな。」 秒針は止まらない。正確に、地球上の命のタイム・リミットは迫る。 ある親は、まだ幼い我が子を涙ながらにあやしているのだろうか。 恋人は、センチメタルとナルシズムを持て余して抱き合っているのだろうか。 未だに小難しい計算式と向かい合い、地球の救世主を目指す学者がいるなら、拍手を贈りたい。 「俺にも時計、見せてくだせェ。」 「腕時計でいいのか。」 「はい、これは秒針ついてるし。」 俺達は─…地球の終わりを、世界の終わりを、待ちわびている。 いや、待ちわびているのではなく、この瞬間を歓喜しているのだ。 ──やっぱり俺、人間として存在したかった。ワガママですかね。 だけど、こんな不死身の身体であんたに出会うのは悔しいでさァ。もし、俺の18歳が本当に今だけなら、あんたに出会ったことを奇跡だって言えるのに。 「あ、土方さん見て!アレですよ!」 「本当だ、」 ──こんな永遠の身体、ちっとも嬉しくねぇ。ほら、生きてるものは、あんなに綺麗なのに。 「土方さん…俺、今、生きてます。」 「そうだ、総悟は、俺の隣で、生きてる。」 大丈夫だ。どんなものでも、いつかは壊れるんだから。 おまえ1人を残して、世界を終わらせたりなんかしない。 世界の終わりに、花火が煌めくのを見た。 隣で総悟が、綺麗だと呟く。 俺達の夏が、終わっていく。 花火 |