ムラムラします | ナノ



「あー、やべェ…このままだと寝る。」

土方さんが呟く声を聞き付け、アイマスクの内側で俺は目を開けた。今はどちらも隊服で土方さんは書類と格闘中、俺はアイマスクをつけて睡眠中。断っておこう、これはサボりじゃない。時刻は午後8時で、夜勤などを除けば労働時間外だ。ただし、鬼の副長さんには労働時間外という言葉は該当されないのも事実。

「寝るな土方ー!」

寝転がったまま声を無意味に張り上げつつも、俺はアイマスクを額までずらして土方さんをチラ見する。

「おまえに言われると腹立つ……」

土方さんは本当に睡魔に襲われているようで、物言いがぼんやりしている。なんていうか、覇気がない。だらしないねェと溢しながら、土方さんの顔が見えるところまで移動して、眠たそうな表情を窺う。

「眠い?眠いんですかィ?」

珍しくぼんやりしているのが面白くて、じーっと見ていると、土方さんが顔を上げた。そりゃあ見られているのを感じたからなのだろうけど、ばっちり重なった視線は離れない。欠伸でもしたのか土方さんの瞳は濡れている。

「……眠い。」

俺を潤んだ瞳で見ながら、土方さんは甘えるように繰り返した。(沖田フィルターが過剰なほど事実を塗り替えていることを、彼に変わり深くお詫び申し上げる次第で御座います。)
やばいのは俺だ。鼻血出そう。

「ね、寝たらどうですかィ。」

やっぱ嘘。まだ寝るな!

「んー、だけどまだまだあるし…」

口を尖らせて拗ねたように書類を見ている。(この先も過剰に沖田フィルターが偽りの情報を流す可能性がありますので、ご了承下さいませ。)
なんだよ、可愛すぎるだろ。わざとか、わざとなのか。でも土方さんが自ら隙を作るとは考えにくい。無意識!?自覚してないのか!?…まぁどっちでもいいや。
バンッと2人に挟まれた机に手をつき、身を乗り出す。土方さんの肩がびくついた。

「じゃあ…俺が目を醒ましてやりまさァ、もちろん、俺のから…」

「いや、大丈夫だ。なんか今の音で目醒めたわ、さんきゅ。」

「…………」

「どうかしたか?すごい情けない顔になってんぞ。」

あんたのせいだって。

「きっとまた眠くなりますよ。俺が完全に起こしてあげます。」

なんとか言いくるめようと土方さんの手を握ろうとする。が、触れる寸前で土方さんが置かれていた筆を持った。

「今日中に終わる気がしてきたぜ。たまには総悟も役にたつな。」

行き場のない俺の右手。むかつく。でも、復活して書類と向き合う土方さんを見ていると、別にいいかと思ってしまうから困る。
次に眠いと聞こえたら、慎重に近付いてやろう……そんな下らないことを考えながら、俺はアイマスクを目元まで下ろした。



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