祈り | ナノ



途方もなく喉が渇く。
ついさっきコンビニに入って500mlペットボトルを飲み干したのだが、この渇きの解決策にはならなかったようだ。剥けた唇を舐めて、滑稽なほど輝いているあの太陽のせいかと考える。

「……いや、違う。」

あまりに簡単すぎる己の問い掛けに呆れてつい笑いが溢れる。それに気付いた土方さんが、訝しげに目を細めた。

「なにが違うんだ、気味悪い。」

肺が真っ黒になって死ねばいいのに、と何度も俺が暗に忠告してやっているのに、彼が持つ煙草は今日で4本目だった。

「土方さーん、やっぱり煙草はやめた方がいいですぜ?俺はぴんぴん生きてるあんたを殺したいんだから。」

にやり、今度は確信的に口元を緩ませれば、青筋を浮かべた土方さんは無視すんじゃねぇと言った。ぴんぴん生きてるあんたを殺したい、それは大分昔から変わらない言い分である。けれど、偽りから真に変わったのはここ数年のことだ。少し前であれば、俺の一挙一動に面白いくらい突っ掛かってくる土方さんを見たいが為に口にしていた。今思えば、なんて純粋な想いであろうか。ただただ憧れ、恋焦がれていた存在だったのだ。それが、本気で殺してやろうかと思うようになった。否、本気で殺したいのだ。俺はきっと土方さんがいなければ駄目だ。何が駄目なのかと問われても、さぁと答えるしかないが。
黒い髪の艶、鋭い目付き、煙草に手を伸ばす指まで、何もかもが愛しいのに。全てを大事にしたいのに。あぁ、殺したい。そう思ってしまうのだ。
昼間、見廻りの途中、大勢の民衆、この状況の今、俺が腰にかかる刀で土方さんを叩き斬ったなら。土方さんはどんな顔をするのだろう。それとも起きたことを理解する間もないほどに一瞬で逝かせてやる方がいいか。

……そもそも俺は、一体何を考えているんだ。土方さんを殺すだって?馬鹿馬鹿しい。そんなデメリットだらけのことをしてどうするつもりだ。刀へ伸びていた右手を、はっとしてポケットに突っ込む。危ない、これは今日で6回目だ。土方さんの煙草より、俺の歪んだ欲望の方が重症だなんて。

「おい総悟、大丈夫か?」

1人でモヤモヤ考えていたら、土方さんが不思議そうな顔で俺を覗き込んだ。目と目が、かち合う。そして自然と、右手がポケットから出て刀へ向かう。だが、何故かそれを止める気にはならなかった。

──やめろ、やめろ、

どこか頭の隅で、必死に俺を説き伏せる声がする。

俺は、静かに目を閉じて、



祈り
(大切な貴方を純粋に愛せたなら、
それほど幸せなことはないのに)