1号が見付かった | ナノ



「近藤さん近藤さん、」

「ん?総悟か。どうした。」

道場での練習の合間、休憩している近藤が振り向くと、総悟が眉をひそめて手招きをしていた。

「あの黒いの、なんですか。」

それはまるで転がっている小石でも示すかのような言い種だったので、近藤は古びた庭をぐるりと見渡した。

「…何かあるか?」

「あれでさァ、あれ。」

総悟が指差す先には、先日近藤がつれてきた土方がいた。彼は頭の先から爪先までくまなく怪我をしていたので、縁側で1人座っていたのだ。そういえば総悟が土方を見るのは初めてかもしれない。

「門下生のトシさ。少々愛想が悪いが、仲良くしてやってくれ。」

「近藤さんがつれてきた荒くれ者ってのはあいつですかィ。」

近藤がそうだと頷くと、総悟は何が気に入らなかったのかあからさまに嫌な顔をする。それでも土方へ近づいていく総悟を見て、近藤は安心した。

「やい、そこのボロ雑巾野郎!」

しかし開口一番、総悟は土方に向かって叫んだ。土方は土方で喧嘩は売られ慣れているため、眉間にしわを寄せて総悟を睨む。

「あ?なんだてめー。」

「名前なんていうんだ!」

「は?」

「名前教えろよ!」

どうやら総悟は喧嘩を売ったのではなく、ただ名前を聞きたかっただけらしい。高飛車なその態度は元からなのだ。

「……土方十四郎だ。」

「ふーん、変な名前だな。」

「やっぱ喧嘩売ってんのか。」

「売ってねぇよ!俺は沖田総悟!先輩なんだから敬語使えよ」

「なんで糞餓鬼相手に敬語なんざ使わなきゃ……」

「まぁトシ、確かに総悟はこの道場で一番長い門下生なんだよ。」

「そうだぞ、敬語使え!」

「チッ……分かりました沖田先輩、これで満足スか。」

「まぁまぁだな。」

この小僧…!などと土方は思ったのだが、近藤も笑っているし、黙っておく。

「総悟、そろそろ練習に戻ろうか。」

「嫌だ。」

「嫌って…親父に怒られるぞ。」

「俺は練習をちょっとくらいしなくても天才だから大丈夫でさァ。」

近藤は少し迷ったが、総悟の言うこともあながち自意識過剰ではないので、仲良くやれよと一言残して練習に戻る。そこには土方と総悟だけになった。

「なぁ土方、おまえに位を授けてやるよ。」

「そんなに自分は偉いのかよ。」

「今日から俺の下僕1号な!」

「……いや、なんで。」

「この道場には6号までしかいないんだけど、土方には1号の座を与えてやるんだ。」

「なにその不名誉な座。」

「ふめーよ?」

「不名誉っていうのは…」



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(他愛もない日常の始まり)