非日常的な朝 | ナノ



「コロコロパワー!」

不可解な掛け声が聞こえる。
時計の針はまだ朝の4時を指している。睡眠の邪魔をするのは誰だ、と屯所に住まう男達は皆思っただろう。が、相変わらずつまらなさそうな音程で声を張り上げるのが彼だと分かると文句をこらえる。仕方ない、あの人は馬鹿だから。そんなふざけた理由で泣き寝入りするのは、決して彼が馬鹿にされているからではなく、その横暴さが恐れられているからだ。
しかし、ただ一人、怒鳴らずにはいられない者もいた。

「おいコラ総悟ォォォォ!いま何時だと思ってんだァァァァ!」

土方は、廊下に顔を出し、声のする方向へ叫ぶ。するとそちらの曲がり角からタイミングよく飛び出してきたのは、粘着カーペットクリーナーを持った蜂蜜色。コロコロと呼ばれるそれを、文字の如くコロコロしながら土方目掛けて走ってくる。

「見ての通りコロコロでさァ!行けェ!コロコロキーーック!」

猛スピードで土方まで走った沖田は、手でコロコロを支えにして勢いよく宙に浮く。土方の顔面に同時に繰り出されるは技の名称さえないような乱雑な蹴り。沖田は右足で強烈なダメージを与えたすぐあと、左足で思いっきり土方を蹴り飛ばした反動を利用して華麗に床へ着地。土方は呆気なく倒れこみ、沖田を見る。涼しげに笑う沖田に頭へ血が上った。

「なんのつもりだ総悟!朝っぱらからんなもん振り回して!」

「掃除以外になにがあるってんですかィ。」

「おまえなら武器にしそうだ。」

土方が眉をしかめると、沖田がコロコロの粘着テープをずいっと前に出した。

「ほら、効果抜群。」

粘着テープには髪の毛や埃、食べかすがたくさん付いていた。

「……掃除するなら静かに頼む。」

「だってこれ、めっちゃテンション上がりますぜ。」

「時計見ろ。4時だぞ、4時。」

「歳をとると自然と目が覚めるから困りまさァ。」

「いやおまえ18だろ。」

つい普通の会話に流れ込む。そこで、隊士達もぞろぞろと集まってきた。

「どうしたんだ副長。」

「俺じゃなくて総悟に聞いてやれ。」

「隊長ォォォォ!その手に持っておられるのはまさか…ピーッをピーーーッしてピーーーーッするつもり、ブフォ!」

「神山ァ、なに一人で盛り上がって鼻血噴出してるんでィ。」

「ちょ、神山が大量出血で死ぬぞ!誰か医療室連れて行け!」

「なんだー、この騒ぎは。」

「また沖田隊長が主犯らしいぜ。」

「ははは、いつもあの人はトラブルメーカーだからな。」

「てめーら聞こえてるぜィ。」

「お、総悟!偉いな!掃除してるのか。」

土方は集まった隊士を適当にあしらい、神山は医療室に運ばれ、沖田は自分の噂をする隊士を楽しそうに指摘する。そして近藤はそんな彼らを見て笑う。

非日常的な光景であることが、屯所の日常なのだと、土方は改めてため息をついた。



非日常的な朝