「ぁあ?俺の方がモテモテでさァ!」 真夜中の屯所に突如、大声が響いた。声の主は一番隊隊長沖田総悟。低音の男が沖田に何かをたしなめるように言ったが、それは逆効果だったようで沖田は更に声を荒げた。 「その態度が気に食わねぇ!余裕ぶりやがってこのクソマヨラー!」 低音の男はもとから短気な性格であったため、二度も沖田という仮にも部下に怒鳴られて黙っていなかった。 「余裕ぶってねぇよ!おまえが余裕ないからそう見えるだけだ」 男は副局長土方十四郎。土方は、沖田が子供扱いされるのを極度に嫌うことは十分すぎるほど認知していた。それでも「沖田に余裕がないのが原因」のようなことを言ったのは、かなり頭にきていた証拠であろう。 沖田と土方が口論をするのは副長室。大声を出したものの、まだ隊士達は起きていないようだ。 「俺に余裕がない!?どのツラ下げてんなこと言ってんでィ。それが偉そうだって気付けよ!」 「実際おまえより俺の方が年上だ。偉いんだよ!」 年上なのが偉いとは限らないが(それはむしろ逆のことが多い)、確かに一理ある。土方には年上の分だけ精神的にも余裕がある。 「偉いとは言ってねぇ!偉そうだって言ったんだよ大馬鹿ニコチン野郎」 「なんだと!?おまえほど偉そうでもねぇよ!」 「俺は偉そうじゃねぇ!実際偉いんでさァ!」 「さっきの俺が言ったことと、たいして変わらねぇだろ」 何事にも無関心そうな沖田と何事にも冷静な土方は、人一倍負けず嫌いだ。一度喧嘩が始まるとなかなか終わらない。 「つーか前から思ってたんですがね、俺ァもう18なんでさァ。あんまり子供扱いしないでくれませんかねェ!」 「18も未成年だ。子供なんだよ!」 「じゃああんたは子供よりも剣が下手っぴなんですかィ。情けないことで!」 「剣は関係ねぇ!それにおまえは後先考えずに子供じみたことするだろ。」 「それが俺のやり方でさァ!」 「だったら子供扱いされても文句言うな!」 最早、話の主旨が全く変わっているが、沖田と土方であるが故にそのまま話が続く。 と、そこで水を飲みに起きていた監察山崎退が、2人の声を聞き付け副長室の襖を開けた。 「どうしたんですか2人とも…夜中ですよ、全く。」 山崎が部屋の灯に目を眩しそうにしばたかせ、お互い睨み合っている2人を見た。 「総悟が喧嘩売ってきたから悪いんだ。」 「なんだと土方ァ!いっつも自分が一番かっこいいみたいな顔しやがって!」 「してねぇ!てめーこそムカつくほど整った顔してるくせに!」 「あんたには負けまさァこのヤロー!」 「え、これって喧嘩なんですか。」 「「当たり前だろ!」」 喧嘩しているとは到底思えない息のよさで言い返され、山崎は頭を掻く。 「とにかく、今はみんな寝てるんで喧嘩は止めてください。」 「ふざけんな!こいつが降参するまで喧嘩は終わんねぇ!」 「残念でした、俺は降参しやせんぜ。あんたが諦めろィ。」 「言うじゃねぇか。今の台詞、後悔させてやるぜ!」 「副長も子供じゃないんですから落ち着いて!ちょっと!?隊長は刀置いて!」 山崎の必死の牽制も2人には意味がない。ついに刀を手にした沖田につられ、土方も自らの刀を手繰り寄せる。 「土方さん、今宵、決着をつけようじゃありませんか。」 「上等だ…」 「やめてください!お願いだから!」 屯所が半壊し、それが何故だか哀れな山崎の責任となったのは、まだ先の話。 |