足下を掬われた | ナノ



まったく女というのは不可解な生き物で、やたらと噂話を好む。何丁目のなんちゃらという色男に恋人ができたとか。更にその恋人が色男に釣り合わない容姿をしていると食い付きは倍増するのだ。まったく不可解である。特に今挙げた例のように恋愛沙汰ともなれば、噂の広がり方は尋常でない。

しかし、だ。男だからといって噂話に疎いということはないのだ。知りたくなくても耳には入るし、広める気がなくとも広げているものである。もしここが男臭い真選組屯所であっても、冷淡マヨラーな鬼の副長が結婚するとなれば、その噂話はあっという間に隊内へ知れ渡ることはおかしいことでもない。



「土方ァァァァァァァァァァ!」

あぁまただ。
日常と化した総悟の襲撃。書類を書いている右手を止めて、土方はため息をついた。

ドタドタドタ……

スパーンッ!

いつだって予想できない奇襲を仕掛けてくる部下に覚悟を決める。が、その覚悟すらも水の泡となる出来事が起こった。

「うおっ!」

思わず煙草が口からこぼれて何処かへすっ飛んだ。渾身の体当たりを決めてきた総悟を支えきれずにそのまま後頭部を畳に強打。体当たりするなら体当たりするって最初から言ってくれればいいのに、と考えてからそんな馬鹿なことを言う訳もないと自らで納得する。

「なんですか、なんなんですかあんた。」

いきなり強力な体当たりをかましてきた総悟は、いきなり尋ねてくる。

「…は、なんですかって、てめぇがなんなんだよ。」

半ば呆れて聞き返せば、ギロリと睨まれる。そうだ、滅多に見せないあの鋭い瞳をしていた。正直俺みたいに(多くの証言によれば)始終瞳孔を開いているような人間より、普段何も考えてなさそうな人間がこういう目をする方がかなり怖いのだ。現に今のこいつはかなり怖い。

「あんた、見合いしたらしいな。」

いきなりなんの話なんだ、と聞くといいから答えろと首にかけられた手に力が込もった。

「…したさ。確か黒髪の女だった。」

なんでその女の特徴を教えたのかは分からなかったが、テンパっていただけだと思う。

「あんたは好きでもない女と結婚できるのかィ、呆れたもんだ。」

「ちょっと待て誰が…」

「言い訳なんざ聞きたくねぇんだ。それならそうと何で俺に言わなかった?まさか俺のあんたへの気持ちが遊びだとでも?」

「んな訳あるか、つーか何か勘違…」

「じゃあなんででィ。あんたの俺への気持ちが遊びだったんですか。」

「んな訳もあるか!っだから人の話を聞けって…」

「あんたの話なんてもう聞きたくないんでさァ!」

…だったら何故質問をするんだ。

「絶対に勘違いしてんだよ!見合いしたのは事実だ、だけどな…」


丁重にお断りしたから!



「……え、」

まさかまさかまさか。俺の小さい脳ミソの中は混乱している。混乱していてどうしようもない。なんだって、土方さんは今、お断りしたって言ったか?つまり結婚しないのか?つまりつまり、すべては…本当に勘違いだったっててことじゃあないか。



足下を掬われた
(いや実際は噂話を真に受けて
慌てふためいた俺が悪いだけなのだ )