「へい、そこの兄ちゃん!」 土方はぴたりと足を止めた。 帰り道に通りかかった自転車置き場には、俺と俺を呼んだ奴以外には誰1人いなかったからだ。妙な呼び止められかたをして、元より悪い目付きを更に悪くし振り返る。(本人にその気はないのだが) 「…あ?」 そこには、1学年下の男子生徒であることを示す赤いバッチをジャケットの胸につけた少年。また、瞳の色も赤。あぁ、そういえば見覚えがある。確か髪色のことで特別指導を受けていた。それがかなりの美少年だということを、クラスメイトの神山が興奮気味に言っていた。入学時からしつこく教師に付きまとわれているであろうに、栗色の髪の毛は変わっていなかった。その上、シャツの下から赤と青のTシャツを覗かせ、ハイカットのスニーカーには原色が散りばめられている。派手な奴等と絡んでいるところは見たことがないので、1人ふらふらと好き勝手やらかしているのだろう。 「ちょいと乗っていきやせんかィ。俺のおんぼろサド丸51号に。」 どんな誘い文句だ。 こういう派手な類いの奴は嫌いじゃなかったが、規律を守らないのは好きでもなかった。つまりは、彼と関わりたくはないということ。 「遠慮しとく。」 素っ気なく言い放ってまた歩き出すと、奴はすいーっと自転車を漕いで隣に並んだ。瞳と同じ、赤い自転車だ。 「そう言わずにさー、何か奢るからお茶でもしやしょうよー。」 まるでナンパのような言葉を並べる少年を、まるでナンパをされたかのように下を向いてやり過ごす。なんなんだ、なんなんだよこいつ。男を追いかけて楽しいか? 「つーかなんで追いかけて来るんだよ。他当たれよ、他!」 「いやでさァ。運命には逆らえないんで。」 「は!?何が運命だコノヤロー。」 「俺ァあんたに運命を感じたんでィ。」 「知るかァァァァァ!」 気持ち悪っ!こいつ気持ち悪っ!涼しげな顔して運命とかほざきやがったよ。しかも走っても相手はチャリだから敵いやしねぇ! 「ちょっと何で逃げるんですかィ?俺はただ運命に従ってるだけなのに。」 「てめーが追いかけるからだ!変質者か!?変質者なのか!?」 「だから違いまさァ。俺はあんたと仲良くならなきゃいけないから、追いかけるしかねぇでしょう。」 意味分かんねェェェ! 「ちょ、まじで警察呼ぶぞ!」 「えー、なんでですかィ。」 「己の行動を見つめてみろ。」 いつまでも追いかけて来る彼に、俺はため息をついて止まった。諦めたように向かい合った俺に、そいつはムカつくほど嬉しそうに笑ったのだ。 悪夢の予感 (俺まで運命を感じているだなんて 悪夢以外のなんだって言うんだ。) |