夏空 | ナノ



一般的に俺達は「青年」という部類に振り分けられる。子供というには善くも悪くも知恵があり、しかし大人というにはあまりに脆く、それを指摘されると小さな小さな牙を向く。また、進路や異性への興味や社会・親への反発。俺達の向かう先に居座る「大人」はそんな俺達を「難しい年頃」と呼ぶ。確かに数字の並んだ問題用紙や、センター試験頻出単語などを目にすると吐き気がする。あの子可愛いなーCカップはあるかなーとか興味は有り余るほどある。そしてそれを生温かい目で保護するふりの社会に嫌気もさす。
が、そんなことはどうだっていいのだ。所詮難しいのは今に始まったことでもないし、それを学んだ今よりも「子供」の頃の方が余程試行錯誤していただろう。
つまり俺が言いたいのは、下らない名前で縛り付けられなくたって俺達はちゃんと好き勝手に青春を楽しめるんだということである。


「おーい遅いですぜ土方さん。ちんたらしねぇで漕ぎなせェ!」

「てめっ、ふざけんなよ!乗せてやってんだから文句言うな。」

鋭い真夏の日射しと爽やかな夕方の風を浴びながら文句を言えば、息を切らせて自転車を漕ぐ土方から怒鳴り声が返ってくる。
夏休みの予定を埋め尽す部活を1日終えた後。今朝から自転車が絶賛パンク中の俺は、企み通り土方の自転車の荷台を確保することに成功した。疲れただの足が痛いだの、適当な口実を並べ立てれば、舌打ちをしながらも俺が荷台に乗るのを待っているのがこの男だ。

「あ、今日はあんたんちで宿題移すんで俺の家寄らなくていいですよ。」

「はぁ!?んなこと聞いてねぇよ図々しい奴だな!」

「俺が家に行ってやるんですから感謝しろィ」

「意味わかんねぇ!」

足をバタバタと無意味に動かす。
ったく、こんなに痛いくらいの日光で俺を攻撃するなら、何故だか年中真っ白なこの肌をついでに焼いてくれないだろうか。やはり息を切らし坂を登る土方の制服のシャツから見える、いい具合に小麦色な肌を見て思った。

「つーかおまえな、毎日部活帰りに俺んち来るのいい加減飽きろよ。」

坂を登り終わり、緩やかな下り坂で体力を取り戻す土方がため息混じりに言う。

「だって近藤さんはストーカーで忙しいし。俺、友達少ないんでさァ…可哀想だと思いやせんか。」

「嘘つけ。話し掛けられても徹底的にシカトすんのはてめーだろうが。」

「あんな奴等と話すくらいならCO2削減の為に黙っとく方が有意義でィ。」

親しげに話し掛けてくるギャアギャア五月蝿い奴等を思い浮かべて眉を潜める。

「取り敢えずおまえに可哀想の要素は1つも感じねぇな。」

「じゃあ夏休みなのに彼女がいない俺と土方さんは可哀想じゃないですか。」

「……それは可哀想だ。」

そう言って笑った土方につられて、俺も笑いが溢れる。

俺達は、青すぎる夏空の下。
可哀想とは程遠い爽快と一緒に風を感じる。



夏空