「山崎ぃー山崎いねえのー。」 見廻りから帰ってきたらしい総悟が玄関で騒いでいるから、俺は副長室から顔を出して大声を出す。 「うるっせえ!山崎は非番だ!朝から出掛けてる!」 落胆したような呻きが聞こえ、どたどたと足音が近づいてくる。目の前に現れた総悟を見て、思わず怯む。 総悟が、顔を血だらけにして屯所に帰ってきた。……いや、この表現は的確ではない。顔が血だらけだった痕跡を少し残しつつ、代わりに珍しく外された隊服のスカーフを血だらけして帰ってきた。恐らくハンカチやティッシュを持っていなくて、スカーフで血を拭ったのだろう。 「お、おい、何があったんだよ。」 傷が痛むのだろう、顔をしかめた総悟は縁側に腰を下ろし、俺が渡したティッシュで爪にこびりついた血液をはがしはじめた。 「何にもねえです。」 「んなわけあるか。歩いてていきなり、そんだけ出血するなら、そりゃ奇病だ。」 面倒がらずに消毒もしろよ、と付け加えると、ううーんと曖昧な返事。 「男の子はヤンチャなくらいが可愛いってもんでしょう。」 「……言いたくないなら聞かねえけど、派手なことすんなよ。隊服着てる限りクレームは全部うちに来んだからな。」 「なんで土方さんはなんでもかんでも俺が悪いみたいな言い方するんですかねー、あー嫌だ嫌だ、これだから大人は!」 もう子供ぶれるほど幼くもないだろう、とは言い返さない。俺から見た総悟は確かに恐ろしいくらいに子供だったし、けれどやはりほとんど大人だとも言えると分かっているからだ。 いつかの田舎で見ていた幼い笑顔は、ここ最近まったく目にしていない。 「悪いと思われたくないなら普段の行いを正しやがれ。」 「そんな!俺ァ正しまくってるじゃあないですか!隊長の鏡でさァ!」 大嘘を張り上げた声で言うものだから、つい吹き出してしまった。してやったりと総悟は笑う。 「……冗談言ってる暇あるなら早く消毒してこい。」 「めんどくせぇなー、山崎いないなら誰にやらせようかなー。」 自分でやれ。 立ち去り際に、「くそチャイナ、次に会ったらまじで許さねえ。」だとかいう言葉が聞こえたので、どうやらただの喧嘩らしい。まったく、この子供が隊長の鏡とやらになれるものなら、なってほしい。 |