隻眼の男の時代 | ナノ



俺の向かいに座る高杉が、ショートケーキのイチゴをフォークで掬い、こちらへ投げた。

「は?」

「このケーキのイチゴもやる。」

今度はチョコレートケーキに乗っていたイチゴが飛んでくる。投げる、飛ぶ、といっても大した威力を加えられなかったそれらは、ころんと俺の皿に入った。ちなみに俺の皿にもケーキが乗っている。

「ふざけてんですかィ、俺のケーキにもイチゴくらい乗ってらァ。」

「ふざけてねえよ。イチゴあんまり好きじゃねえから」

「それならイチゴが乗ってないケーキを選べばよかったんでさァ。」

文句を言いつつもイチゴを頬張る。高杉はそれを見て安心したように、モンブランに手をつけた。
なぜ高杉と二人でケーキを食べているのかと聞かれれば、答は簡単だ。ここがケーキバイキングで有名な喫茶店だからである。なぜ高杉と二人でケーキバイキングに勤しんでいるかと聞かれれば、その答も簡単だ。高校時代と変わらず時間を持て余している俺たちは、高校時代とはうって変わって金銭的に余裕があるからである。ということでコンビニで立ち読みしていた雑誌に近所の喫茶店の広告が出ているのを見て、そのノリでここまでやって来たのだ。

「おいこれ、モンブランってチョコじゃねえの?」

高杉が眉を潜め、モンブランをつついた。

「モンブランは栗のはずでさァ。」

「まじかよ!色的にチョコだと思ってた、騙された。」

どうやらモンブランを食べたのは初めてらしい。

「それにしてもここのケーキは甘すぎらァ。肉食いてえ、肉!」

「あー、肉いいな……牛肉食いてえ。」

「でしょう!?今度は焼肉屋にしやしょう。給料入ったら。」

「俺な、」

唐突に高杉が態度を改めて、俺を見た。

「俺な、告白された。」

あまりに深刻な表情をしているので、聞き直す。

「告白う?」

「あれだぞ、お前の知ってるような告白じゃねえ。好きだから恋人同士になりませんかという意味での告白だ。」

「いや……そんくらい分かりますぜ。」

高杉はさらに表情を固くした。

「まじかよ!お前、まじかよ!ライクじゃなくてラブのやつだぜ!まじかよ!聞いてねえよ!沖田てめえ、ラブしてたのかよ!!!ラブな高校生活だったのかよ!!!」

「ラブな高校生活できてたら高杉なんかと友達やってないに決まってんでしょう!」

そう言ってやると、高杉はようやく納得した様子でケーキへと意識を戻した。今度はチーズケーキなのでイチゴは飛んでこない。

「……で?誰に告白されたんですかィ。」

一応聞くと、想像通りの言葉が返ってくる。

「また子。」

「いつ?」

「昨日。」

「返事は?」

「そ、そんないきなり言われて返事とかできるかよ……」

いきなりと言っても、たしか来島は俺が知ってる限りでは最初から高杉にべた惚れだった。あまりにあからさまだから高杉も気付いているんだとばかり思っていたが、少しも知らなかったらしい。……いや、そんな馬鹿な。

「あんた本当に気付いてなかったんですかィ。てっきり気付いてて放ってるのかと思ってたんですけど。」

「気付いてるだァ?……だから知らねぇって。昨日急に言われたんだからよ。」

どうやら真剣にそう言っているようだ。

「断っときますが来島が高杉にぞっこんなのはずっと前から知ってたんで、自慢とかにはならないですぜ。」

「いや、たださ、俺、アレかもしんねぇな……!」

「は?」

怪訝に思って聞き直すと、高杉はがたんと席を立って、こう言った。

「モテ期到来だぜ……!」

それはモテ期というのかすら怪しいし、なのに妙に腹が立つしでため息を吐く。とりあえずこのケーキバイキング代だけでも高杉に奢らせようと決意を固めて、ケーキを口に運んだ。



隻眼の男の時代
(そんな嘆かわしい時代が来た暁には
俺は首を吊ってやる)