すべては計画通りに進む。 そもそも土方は、チームを組むのが好きではなかった。ましてや人を殺す行為に、チームワークなんて必要ない。もし利害の一致で協力し合うことがあってもそれはあくまで他人同士での情けの掛け合いであり、チームなんてものではない。 そんな彼が、こうして沖田と行動を共にしはじめたのは沖田からの熱烈な希望、そして彼自身が多少なりとも沖田を好いているからである。 また、周囲から沖田に対する評価は、「まったく腹の読めない男」であった。度々、何を考えているのか分からないと言われる彼であるが、実際は何も考えていないのだ。もちろん頭を使わなければやっていけない生き方をしているが、彼は単純明快な思考しかしていない(ずる賢いなんてお世辞にも言えない、ただの単細胞だ…というのは土方の意見だ)。 なので沖田が土方をしつこく側に置きたがる(または土方の側に置かれたがる、どちらでも同じようなことである)のは、自分と違って頭脳派の土方を必要としていたわけではない。ただなんとなく、共に行動するのが楽しそうで、かつ気楽そうだったからだ。 というわけで、彼らを知る者達が心底不思議そうに首をかしげる彼らの関係というのは、いたって素っ気ないものである。 罠に嵌めるような方法で目的を達成するのは沖田曰く「殺し屋の美学に反する」らしい。彼が本当は罠を用意するのを面倒がっているだけだということを、土方は知っている。 「ま、美学とか言ってもなーんにもキレイじゃねぇんですがねィ。」 日が沈みかけているからか、街はひんやりと冷めている。 半歩ほど土方の前を歩く沖田が言った。そのコートの裏ポケットには、弾のなくなった銃が入っている。殺す人数分だけの銃弾を持っておく、というのも小さなことにはやけに拘る彼のルールだった。 銃声のせいで通報されることもあるため、よく土方は道具を変えろと指摘する。 「現場は血だらけ、下手したら俺たちのコートの下のスーツまで血だらけだしな。」 「だから刃物だとイヤなんでさァ。窒息とかさせても実感ねぇし。」 人通りのない裏路地だからと、沖田は淡々と言葉を繋ぐ。 「にしてもおまえ、いつからこの仕事やってんだ?」 「うーん、あの偉そうな殺し屋のおっちゃんに会ったのが十歳過ぎだったからー……いやあ、忘れちまいやした。」 後悔している様子もない沖田を、横目で見る。 「あー恐い恐い。」 こいつにとっては殺しなんて大したことじゃないのだ──土方は知っていた。政治家だとか社会的地位はもちろん沖田にはどうでもいいことだし、明らかにとばっちりで殺されるお人好しそうな人物を前にしても、その日が晴れか雨かというくらいの気分でいるのだろう。子供や老人が相手でも変わりはないのだ。例え土方が相手でも。 「え、何がですかィ。何かあります?」 何か落ちているのかと面白そうにあたりを見回す沖田に、土方は疲れたような溜め息を溢す。 簡単に人を殺すくせに、野良猫を虐める中学生には「ぶっ飛ばすぞコラ」と土方が見てきた中で一番の怒りを見せ(ぶっ殺すぞコラ、ではないのだ)、散歩中の飼い犬には幸せそうな笑顔を向ける(時には飼い主に断ってから頭を撫でたりしている)。不公平な男だ。 「てめえのことだよ、馬鹿が。」 「あんたの目付きよりは、よっぽど平和な人間ですぜ、俺は。」 「はいはい。」 俺達は殺し屋だ。 現実離れした単語だなあと他人事のように思うけれど、結局はそれが現実なのだ。これこそが日常なのだ。 何が間違いで何が正しいのか、知ろうとも思わない。人を殺して、金を貰って、生きていく。 「あ!土方さん、夕日!」 ビルの隙間から覗く空を見上げる。 「夕日だ。」 殺し屋の話
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