とん、背中にもたれ掛かってきたやつの目星はついている。 俺は一応この組織では副長という二番目の立場にいるし、冗談でも親しみやすい性格をしているとは言えないことも自覚している。きっと気を遣わずに接してくるのは局長のあの人か、斬り込み隊長のあいつくらいだ。 しかし、まぁ、局長の方が背中にもたれ掛かってきたら軽く悪寒がしそうなので。 「総悟、どうした。」 深夜の二時を回っていた。 総悟は夜の九時に寝て、正午に起きるようなやつだから(もちろん昼寝だってする)、夜勤でもないのにこの時間帯に活動しているのは珍しいことだった。 これがまだ太陽の見えるときなら奇襲に警戒するところだろうが、事務作業で疲れきった今となってはそれすら辛い。 「ひーじかたさーん……」 やはりこいつも眠いようで、声が低い。 総悟とは所謂恋仲だというのに、こうして背中に体温を感じていても何とも思わないのがおもしろい。武州にいた頃から当たり前のように側にいたからなのか、ただ眠気が勝っているだけなのか、そもそも俺もこいつも男だからなのかは曖昧だ。 「あー?」 こうしてのっそりとやって来るときは、決まって大した用事がない。 返事をしながら俺は、このまま寝ないで書類を終わらせるべきか悩んでいた。 「部屋めっちゃ寒いー…」 眠いにしても全く殺気がない様子から(こいつは眠気など関係なく俺に対して殺気を絶やさない)、俺はようやく気付いた。総悟は珍しく淋しがっている。 「最近寒いもんな。」 「俺の部屋だけでも冷暖房完備にしやしょう。」 「言っとけ…」 「寒すぎて眠れねぇんでさァ。」 「ふーん。」 思い返してみれば、二人の勤務時間がすれ違うことばかりだった。仕事仕事仕事となっていればそんなことすら忘れてしまうのだが、総悟は日頃から仕事をしないので時間が長く感じていたのだろう。 「………」 「………」 沈黙が流れる。 自分の睡眠がかかっているため、さして気に留めず筆を進める。 「……土方さーん。」 「……んー。」 不貞腐れるような気配がした。 「本当にあんた、いつになったら死ぬんですかー…」 いつものような憎まれ口ではない。自分から話しかけるのは気に食わないから適当な悪口で会話を繋げる、そんな声音だった。 俺は、総悟がたまに見せるこういった一面が、わりと好きだ。 「どうだろうなー。」 寝静まった屯所の雰囲気に合わせて、間延びした口調になる。 あぁ、眠い。 「ひ、じ、か、た、た、た、たんこぶーたー…」 ついにはふざけだした総悟に、俺は筆を置いて振り向く。背中合わせだったのが、相手もこちらの動きに気付いて振り向いたから、上半身だけがちょうど向かい合った。 「顔も見ねぇ日ばっかりだったもんな。」 総悟は、ぱちりと瞬きをした。気だるげな瞼は相変わらずだが、なんとなく気まずさが見えるような、見えないような。 一度知らん顔をしようとしたらしいが、そんなことをしても無駄なのを悟ったらしい。 「そ、んなんじゃねぇ、です!」 持ち前の瞬発力で一目散に駆けていく総悟に、夜中に音を立てて走るな、と頭の中で思った。 余裕かましたあいつの、こんな一瞬がたまらない。 取り繕う
(二人の間じゃ無意味なことだ。) |