風邪、患い | ナノ



雲が、凍りついたように動かない。沈みかけの太陽、冬の空だ。
ふえっくしー、と沖田が情けないくしゃみをした。さっきから、ずっとだ。ふえっくしーふえっくしー五月蝿い。

「うあー、頭ぐわんぐわんしまさァ。」

学校からの帰り道。いつもより遅い歩調で、家までの距離を縮めている。
朝からマスクをしている沖田は、風邪らしい。それなら学校なんて休めばよかったのにと言えば、体育があるから来たかったとのことだ。小学生か。

制服の隙間から入り込んでくる冷たい空気が煩わしい。俺は一刻でも早く帰りたいんだ。

「あとちょっとで家だろ。」

一日中しんどいと不満を聞かされ、おまけに散々情けないくしゃみを聞かされ、うんざりしているのだ。心配する素振りすら見せず、沖田の肩を軽く押した。

「体が熱い。ぜってえ熱上がった。うえ、つか鼻つまる。」

鼻声で滑舌も悪く、喉が嗄れていて呻いてばかり。割と分かりにくい彼が、今日はここまで分かりやすいのだから、そりゃあ相当しんどいのであろう。
そのくらい心得ている。が、俺には体調不良を治す能力なんてない(そもそも体育だとか言ってないで、大人しく休むべきだったのだ、絶対)。

「喋る元気あるなら歩け、馬鹿。」

ふわり、沖田の巻いている赤いマフラーが、僅かに風で舞った。

「頭が地面にめり込みそう。」

「今のところ問題はないから安心して歩け。」

赤のマフラーを右手で掴む。うえ、という声は無視だ。そのままマフラーを引っ張りながら、無理矢理歩く。

「あんた本当…なんでそんな男前なんですか。」

「あぁ?」

掠れた声で呟いた沖田は、マフラーなんて気にかけず、へなりとしゃがみこんだ。
そこで一つ、ふえっくしーが聞こえる。疲れたようなため息も、その直後に。

「分かった、分かったから立て。肩貸してやるから。」

救急車呼ぶぞ、だなんて思ってもいない脅し文句で立ち上がらせようとするが、どうにも足に力が入らないらしい。勘弁してくれ。

「もう、なんて言うか、好きすぎてしんどい。」

沖田は不可解な一言を発した後、宣告通り頭を地面にめり込ませるようにして倒れた。



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