逆光山崎 | ナノ



「あ、」

「あぁ!」

明らかな違和感のすぐ後に、右の眼球に走る鈍い痛み。こぼれた俺の声に反応した山崎が、軽く悲鳴をあげた。
ごしっと額から目元にかけて袖で拭うが、目に入ってしまったので今更どうしようもない。

「ちょっと沖田隊長!その血、どうしたんですかぁ!」

ついさっき、怪我はないかと聞かれて「あーないない。健康健康。」と適当に返したからか、非難するように言われる。
斬り込みが終わった今になって、何故だか知らないがいきなり出血した。

「誰でィ、俺の頭に石投げた奴ァ。」

「そんな命知らずなこと、誰もしませんってば。手当するんで来て下さい。」

いつからこいつは医務班になったんだ、などと考えながら山崎に言われたまま近付く。
額より少し上が痛い。ずきんずきんと脳みそまでやられたかのような気分になる。おまけに擦っても擦っても、手から腕にかけてが血まみれになるだけで、きりがない。心臓より上の出血はすぐに止まるんじゃないのかと疑問に思った。

「なぁなぁ、俺、禿げてねぇ?」

「は?」

「頭切れてんだろ。」

「え、あぁ、大丈夫みたいですよ。出血はなかなか酷いですけど、怪我自体は重症ではないですし。」

消毒液を頭から無遠慮かけられる。どれだけ大怪我を経験しても、痛みに慣れることはない。痛い痛い痛いと大袈裟に騒ぎながら、山崎の脛を蹴ってやる。
そんな俺を見た周りの隊士達がわらわらとやってきて、口々に話し出した。

「大丈夫ですか隊長!」

「目に入ってんじゃないスか!」

「隊長、お一人ですごい大勢を相手にしてましたもんね…尊敬です!」

心配してくれるなら、この痛みを分け合えないのか。しかしまぁ、彼らだってあちらこちらに傷を負っているので、そんなことは言えない。

「…あー……おう、てめぇらも血くらいなんとかしてこい。」

それぞれに返事をしようとしたが面倒になったから、途中でやめた。手で追い払う仕草をすると、大人しく医務班の方へ向かっていく。
傾き始めた太陽が厳つい隊士達に、なんとも言えない哀愁を漂わせていて可笑しい。下手なドラマみたいだとぼんやり思ったところで、山崎が消毒液をがしがしとガーゼで拭いた。

「いってぇ!ちょっと今、抉ったんじゃねぇか!?」

「そんな、とばっちりです。」

白々しく否定をされるが、俺は信じない。山崎はたまに嘘を吐く。

「抉っただろィ。」

「とばっちりです。」

「抉った。」

「とばっちり…抉りました。」

斬りすぎたせいで使い物にならなくなった刀を鞘から抜くと、山崎は真っ青になって頭を下げる。
太陽は昇るのよりも、沈む方が速度が速い気がする。頭を下げた山崎の背後から日光が目に入った。

「抉ったんじゃねぇかよ。」

それはそれで腹が立つが、正直に言ったので許すことにしよう。基本的に俺は心が広いのだ。

「だって隊長、消毒液嫌いだからって、怪我してるの知ってたくせに『怪我なんてない』みたいなこと言ったでしょ。」

「あ、バレてやした?」

「バレてました!」

なぜか怒った風な山崎に軽く謝りながら、怪我よりも消毒液の痛さだけは勘弁なのだから仕方ないと思った。



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