地獄の合宿 | ナノ



「ねーねー土方さあん、」

ごろんごろんと総悟が、転がってきた。
こいつが間延びした口調で俺の名前を呼ぶのは、決して良い兆候ではない。むしろ言ってしまえば、こいつが何かしろのアクションを起こすのは、ほとんどの確率で悪い兆候の表れである。

「あ?さっさと寝ろ。」

恐らく日付が替わってから数時間は経過しているだろう。俺は小声で、しかも苛立ちが伝わるように返事をする。
通いはじめて二年経つこの高校は、比較的剣道部の活動が盛んであり、それなりの結果も出している。そんな部活に、俺と総悟は所属しているのだ。合宿中であるため、疲れはピーク。少しでも長く密度の濃い睡眠をしたい。ちくしょう、このやっかいな後輩さえいなければ。

「暑くて寝れやせーん。」

「馬鹿か。冷房効きすぎて寒いわ。」

季節に合わせて薄いタオルケットが用意されていたが、他の部員がクーラーを地球に厳しい設定にしたので、タオルケットにどれだけくるまっても寒い。
設定温度を上げろ?何度も言うが俺は疲れていて、もう起き上がる元気などないのだ。起き上がったとしてもこの暗闇でリモコンを探すのは至難の技だし、電気をつけて誰かが目を覚ましたりしたら散々文句を言われるのは予想がつく。

「ひーじーかーたーせんぱーい…」

無視だ。
こいつが俺を呼ぶのは良い兆候ではない。そしてわざわざ「先輩」をつけるときは、明らかに悪い兆候だ。
頼むから黙ってくれ。そんな虚しい願いが叶うわけがない。なんといっても相手は総悟だ。

「先輩、人生ゲームしやしょう。」

「なんで人生ゲームだよ……!せめてトランプだろ。」

「しちならべ。」

「……意地でも床に何かを散らかしたいか。」

だいたいこの暗闇で、どうしてそんなことができようか。とにかく寝かせてほしい。放っておいてほしい。

「つーか無駄に基礎練が過酷なせいで、足がダルくてダルくて寝れねぇや。」

ふう、と総悟がため息を吐く。ため息したいのは俺の方だ。

「俺は寝れる。」

タオルケットを頭から被りなおし、これで話は終わりだという意思表示をする。が、隣で総悟は「うあー」だとか不可解な呻き声をあげた。

直後ごろんごろんと170センチの身体を転がしてきたので、絶望的なこの状況をどう解決するか、必死で考える自分がいた。まったく、本当に絶望的だ。



地獄の合宿
(頼む、寝かせてくれよ!!!)