妙な客と店員さん | ナノ



変な客がいる。
来る度に大量のマヨネーズを買っていく、黒髪の男だ。鋭い眼光をした彼は、常に加え煙草から煙を出している。一見冷徹そうな見た目と声色の彼には、俺の働くスーパーにあるマヨネーズの在庫を全て買い占めることは酷く不釣り合いに見えた。
彼の名は、「土方」という。何故知っているのかと聞かれると、理由は簡単だ。俺が働くスーパーの客である彼が働くコンビニの客が、俺だからだ。



変な客がいる。
来る度に新作の18禁雑誌(それも必ずSMもの)を買っていく、茶髪の客だ。彼は、大きな赤い瞳に気だるさを携えていた。一見爽やかで物憂げな彼には、俺の働くコンビニに控えめに置いてあるSM雑誌を嬉々として買っていくことは酷く不釣り合いに見えた。
彼の名は「沖田」という。何故知っているのかと聞かれると、理由は簡単だ。俺が働くコンビニの客である彼が働くスーパーの客が、俺だからだ。



深夜、俺が1人で店番をしていると沖田はやってきた。夜だからかいつも通りだからなのか分からないが、やはり眠そうな顔をしている。フラフラと18禁コーナーへ向かい、新作が出ていないことを知ると小さく舌打ちをした。つーか、こいつは18になっているのだろうか。そう思いつつも、知らないふりをして読みかけのマガジンを捲る。
暫く店内を彷徨いた茶髪の頭が、レジに向かって来た。慌ててマガジンを開いたまま置き、レジの前に立つ。

バサバサっと無遠慮に散らばったのは、何故か大量の炭水化物。値引きシールの貼られたパンや弁当、おにぎり。他にも何を思ったのか炭水化物が恐ろしい量。一瞬目を見張ったが、ここは店員としてスルーした。

「袋は一緒で?」

愛想が悪い(店長談)口調で聞くと、沖田はふるふると頭を振った。

「これぜーんぶ、別々にしろィ。」

「……、はい。」

あの整った顔が嘘のように、滅茶苦茶憎たらしい表情で沖田が笑った。こいつ…むかつく。絶対にわざとだ。本当は一緒でもいいくせに、嫌がらせをしたくて言ってやがる!そもそもこの大量の炭水化物だって、必用じゃないんじゃないのか!?



「ぶっ…ひでーや土方さん。そんなこと思ってたんですかィ。」

どの成り行きでこの話になったのかは覚えてないが、2人で飲んでいると俺達が顔見知り程度だった頃の話になった。

「あれ、実際どうだったんだよ。絶対わざとだったろ?」

「ええまぁ。わざとでしたが。」

「チッ…結局そうかよ。」

土方は、苦々しげに煙草に火をつけた。

「ったく、憎たらしい奴だ。」

「あんときは確か、エロ本が無くて苛ついてたんでさァ。んで、前から狙ってた土方さんに嫌がらせしてみようと…」

「狙ってたってなんだよ!ほんと嫌な奴だな。」

「だって虐め甲斐がありそうな顔ですもん。」

「嬉しくねぇ…!」

「光栄に思いなせェ。サディスティック星の王子が虐め甲斐があるって言ってんでィ。」

「光栄のひとかけらも感じねぇよ。」

そう言って笑った彼は、もういつしかのように「店員」ではなく、俺の……



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