「ぶえーっくし!うえーい、」 近藤さんが、大袈裟なくしゃみをした。くしゃみの後に「うえーい」をつけるのは、この人の癖だ。 仮にも局長が風邪をひいたら大変だ。副長である土方の仕事が更に増えることになる。 「近藤さん、風邪か?」 朝食の席で声をかけると、近藤さんは困ったように頷いた。 「珍しくなー。ま、馬鹿は風邪ひかないとか言うし、馬鹿じゃねぇってことが証明されてよかったよ!」 本人は豪快に笑うが、あんたは風邪ひいたとしても馬鹿に変わりないだろう、と土方はぼんやり考えた。 「あ、近藤さん。おはようございやす。」 「総悟!おはよう!」 ちらりと自分を見たが無視した総悟は気にせずに、土方は白米にマヨネーズをかける。 「それにしても、なんか風邪ひいちまったみてぇでして。さっき医療室行ったら微熱でしたよ微熱。」 「マスクしろよ。風邪菌を撒き散らすな。」 「あぁ土方さんいたんですか。土方菌撒き散らすあんたよりはマシでさァ。」 「なんだとコラァァァァ!?」 沖田の挑発にのった土方が立ち上がると、近藤は自分も医療室に行こうと席をたつ。 「とにかく俺ァマスクってのは苦手でして……ぐえっくしょん!」 「おいおい、まじで風邪かよ。熱あるんだったら今日は休め。」 「いやー、休めって言われると休みたくなくなるのが人間でさァ。よっこらぶえーっくっ!」 わざとらしい沖田のくしゃみと同時に、土方に唾がかかった。 「なんだ今のくしゃみは!絶対にわざとだろーが!唾かけるつもりでやっただろーが!」 「すいやせんすいやせん。やっぱりしんどいんで、休ませてもらうことにします。」 きっちり嫌がらせを済ませた沖田は、近藤の後から医療室へ向かう。真選組局長と斬り込み隊長が風邪とは情けない。 「ゲホッゲホッ、ふ、副長、」 「うわっ!…なんだ山崎か。」 突如肩を叩かれ振り向くと、そこにはいかにも風邪をひいてそうな風貌の山崎。マスクの下に、青白い顔色が窺える。 「熱…出たので……休ませてください…」 「お、おう。ゆっくり休め。」 今にも倒れそうな山崎を見送ると、次は原田だ。 「40℃だ……今日くらい休んだっていいよな…」 「分かった、休め。」 仕事がちゃんと回るのだろうか。いよいよ不安になってきた土方が視線を上げると、原田の後ろにも体調の悪そうな隊士達が並んでいた。 馬鹿は風邪をひかない?風邪をひいているのは、揃いも揃って馬鹿だらけじゃないか。今年の風邪は馬鹿がなるんだな…。 「ったく、てめーら風邪なんか……ぶえっくしょん!」 見渡す限り、風邪をひいた馬鹿。そんな中、自分も風邪をひいてしまった。 はっくしょん |