「もしも土方さんが俺より年下だったら…」 「あ?」 それは唐突に始まった。 仕事をしている俺に総悟が何やらわけのわからないことを言い始めたのだ。 振り返って顔を見ると真剣な表情でこちらを見ていた。 「俺は間違いなくあんたを奴隷にしている。」 「…………………」 「もしも土方さんが俺より地位が低かったら…」 「………………」 「俺はあんたを真選組から追い出してる。」 何を言い出すかと思えば…そんなくだらないことか。 「なんでぃ、その顔は。」 総悟が不満そうに頬を膨らます。 どうやら顔に出ていたらしい。 多分今の俺の表情は怒っているように見えるだろう。 別に怒っているわけじゃない。 ただ普通に傷ついてるだけだ。 犬猿の仲ともいえる俺と総悟がこうして上手くやっているのは、あるべき地位と生まれ持った年齢差からあるのかと思うとなんだか悲しくなった。 あいつの言った「もしも…」は、総悟にとっては普段と変わらぬ罵言のつもりでも、俺にとっては傷つく言葉の一つだったってことだ。 そんなことをぐだぐだと考えていると、何か勘付いたのか総悟がにやりと嫌な笑みをこちらに向けてきた。 「ねぇ、土方さん。」 その表情のまま俺に声をかけてくる。 俺はその言葉にあえて返事をしなかった。 どうせまた悪口か何かを言ってくるに違いないと思ったから。 「もしも、土方さんが俺を嫌いだったら……」 ほれみろ。この場合ならどうせお前は喜ぶんだろ。 お前はそんな奴だ。俺がお前をどう思っていようと、何も知らないお前は無邪気に残酷な言葉を俺に向けてくる。 俺がそれに怒ってもお前はそれを間に受けて笑ってるだけで、その内で俺が傷ついてることなんかには気付かない。 「俺は死にます。」 「…………………は?」 だが返ってきたのは予想外の言葉だった。 驚いたように目を見開いていれば、その反応を見て総悟が満足そうな顔をした。 そういうことか。 「Sは打たれ弱いんですよ。」 どうやら俺ははめられたらしい。 こいつは何も知らない顔をして、俺の気持ちに気付いていたんだ。 言葉巧みに俺を翻弄し、俺の反応を見て遊んでやがったんだ。 そのドヤ顔が非常に腹が立つ。くそっ……。 こいつに一泡吹かせたい。 何かいい方法はないだろうか……。 (………………あっ………) そのとき、俺の頭の中で良い案が浮かび上がった。 こいつに効くかどうかは分からないけど試してみる価値はある。 「………じゃあ俺が、いいことを教えてやろう。」 俺を傷つけた精一杯の仕返しとして、お前のこの言葉を上げよう。 「俺はお前のことが大嫌いだ。」 勝ち誇ったようにそう言えば、総悟は硬直したまま動かなくなった。 そんな総悟の反応に満足した俺は、奴に背を向けて止めていた作業を再度開始した。 こいつのくだらないお遊びのせいで随分と時間を食ったが…別に急ぎの仕事でもないのでいつも通りのペースで作業を続ける。 「…………………俺もあんたなんか、大嫌いだ。」 総悟が後ろで何か言っているようだが聞こえないふりをした。 今はこの優越感を味わっていたい。 悔しそうな顔をしてるやつの顔が目に浮かぶ。 だが俺は後ろを見ない。 だって君が笑っていたら嫌だから。 ───────── 「最果ての孤島」管理人の未来さんから。素直じゃない、ひねくれた関係の沖土が大好きです。リンクだけでなく小説まで…ありがとうございました。 |