好きな人には、隠し事をしたくない。また、好きな人には、隠し事をしてほしくない。当たり前だ。けれど隠し事なしに人と付き合えるほど単純な世界ではないし、少なくとも俺の世界はそんなに単純ではない。それを言い訳にするつもりはないが、俺はいくつか土方さんに隠し事がある。 例えば女に興味がないなんて嘘だし(ただ、女よりも土方さんへの興味が大きいだけだ)、昨日土方さんの革靴にマヨネーズを仕込んだのは俺じゃないなんていうのも嘘だ。 そんなふうに、俺は大切な人にも隠し事をしていた。正しくは、俺達は大切な人に隠し事をしていた。 「…………」 「…………」 「…………」 バレた。近藤さんに、俺達の関係が。別に知られたくなかったわけじゃなくて、普通は男同士で恋愛なんてしないし、説明するのが面倒だっただけ。 でも仕方ない。だってキスしている現場を見られたんだ。それもとびきりディープ。誤魔化しようがない。 「え、おまえら、え、え?」 きょとんと間抜けな顔をした近藤さんが俺達を交互に見た。土方さんはあたふたしている。ちくしょう可愛いな、なんて思いながら、俺もあたふたする。 「ちっ違うんだ近藤さん!これには深いわけがあってだな…」 「え、おまえら、え、え?」 さっきから近藤さんは、壊れたように同じ言葉を繰り返している。脳みそがフリーズしている俺に土方さんが、何かおまえも言えよ、という視線を寄越した。 「そういうのとは違うんだ。それとこれとは話が違う!」 「え、おまえら、え、え?」 「だから違うんだよ!違う!」 きょとんとした近藤さんも、土方さんの勢いに負けて、だんだんあたふたしてきた。違う違うって、何が違うんだろう。 必死に言い訳を考えるけど、いくら近藤さんが馬鹿だとしても誤魔化せなさそうだ。それに、何故誤魔化さなくちゃいけないのか、それすら疑問になってくる。こうなってくればどうしようもない。俺はややこしいことを考えるのは苦手だから、お手上げだ。 「いやー実はね、俺と土方さんは付き合ってまして。」 黙っていたかと思えば急に白状しはじめた俺を、土方さんがぎょっとした顔で見た。近藤さんは相変わらずきょとんとしている。 「え、付き合って?」 「違うって近藤さん!」 「ややこしくなるから土方さんは黙っといてくだせェ!」 土方さんの口を右手で鷲掴みしてやれば、少し大人しくなった。近藤さんは相変わらず、だ。 「俺らは恋人ってやつで。」 「恋人?あれか?俺とお妙さんと同じ意味でか?」 「実際は違うけど、あんたが考えてるのとは同じ意味でさァ。」 近藤さんは、同じ意味…と呟きながら再び、俺と土方さんを交互に見る。俺とお妙さん…とも呟いているが、それはやっぱり違う。 しばらくすると、近藤さんは眉を下げて言った。 「昔からの縁じゃねぇか、教えてくれないなんて寂しいだろ!」 「……あ、あぁそうですねィ。確かにそれもそうだ。」 鷲掴みにしていた右手を離しても、土方さんは何も言わなかった。仲間はずれとかするなよ!と叫びながら近藤さんは去っていく。 「はっはっは、まさかおまえらがな!気付かなかったよ!」 もうだいぶ遠くなっているのに、まだ一人で喋っている。土方さんが、息を吐いて言った。 「あの人らしいな。」 「あの人らしいですね。」 隠して損した (とても単純な話だったのに。) |