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「ひーじかーたさーんっ。」

武装警察真選組、彼らは幕府からの要請で、日々江戸で勃発するテロを取り締まっている。一見、常にピリピリと厳格な雰囲気に包まれていそうな組織だが、それは勘違いである。

「…………」

「ねぇ、なんで無視すんですかィ?もしかして聞こえてません?ひーじーかーたーさーんっ!」

真選組に勤務する多くの隊士は、屯所で生活をしている。そんなわけだからもちろん、屯所には食堂が設けられているのだが。

「…………」

「あり?ついに頭だけじゃなくて耳までおかしくなっちまいましたかねィ。」

穏やかな朝の食堂で、いつもポーカーフェイスを崩さない沖田が、鬼の副長土方にまとわりついている。おまけに土方は、徹底的に無視をしている。その異様な光景に隊士全員が黙り込み、遠目で様子を窺う。

「…………」

相変わらず無視を続行する土方に、沖田は少しつまらなそうにしてから顔をぐいっと近付けた。そして土方の耳元で、故意に囁く。

「ひ、じ、か、た、さん?」

「なっ、なんだよさっきから!」

「さっきから聞こえてたんなら、返事してくだせぇよ。」

「……で、どうしたんだ。」

沖田の文句を聞かないふりをして、土方は訊ねた。

「特に用事はないんですが。今日はまだ、あんたと話してないなぁと思いやして。」

土方は肩を落とした。

「なんだそれ。」

「いやー、やっぱりいつも一緒にいると、少しでも喋らないと気になるもんですねィ。」

普段は仲が悪く見える2人なので、隊士達は静かに驚く。一方、土方はまんざらでもなさそうだ。

「そういえばそうだな。つーかおまえ、なんで隊服じゃないんだよ。」

着流しのままで朝食をとる沖田に、土方が訊ねた。

「え?だって俺、非番ですもん。」

「非番なのに朝から起きてくるとか珍しいな。」

休日はもちろん、勤務のある日まで朝早く起きない沖田である。確かに珍しいことだ。

「なんか目が覚めたんで、今日は一日土方さんを観察しとこうと思って。」

隊士のうち何人かが、味噌汁を吹き出した。もとから沖田が土方にぞっこんなのは明白だったが、ここまでくると救いようがない。
ついには土方まで「ったく、俺なんか観察しても楽しくねぇだろ。」などと言い出したので、隊士達は食器を片付け、黙って食堂から出て行った。



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