人混みから、たった一人を見付けた。 (明けない夜はない、終わらない苦痛はない。俺はそんな言葉が嫌いだった。現在進行形で辛い人間を慰める言葉なのだろう。)(が、本当に辛い人間はそんな言葉を聞いても、やってこない朝や兆しのない幸せを思い、余計に不貞腐れてしまうのだ。) たった一人も、俺を見付けた。 (けれど今、俺はしみじみと感じている。夜は必ず明けるし、苦痛はいつか途切れるんだ。)(あぁ、この言葉は朝を迎えた人間、すなわち幸せを手に入れた人間が言ったんだな…なんて過去の自分に無責任な笑みを浮かべる。) 俺はゆっくり、歩み寄った。 (遠距離恋愛がなんだと言うのだ。)(──会えなくなるんだ。何日?何日も。どのくらい?365日。)(たとえ一年会えなかろうと、一年経てば会えるのだ。なんてことはない。実際に俺達は、こうして会えているんだから。) そのたった一人は今、文字通り俺の目の前で眉を潜めている。仕方がないので、彼の後頭部をがっちり抑えていた右手を離してやる。少し咳き込んでから、土方さんは言った。 「いきなり人前でこんなことする奴がいるか…」 おそらく、一言も発さずに土方さんの唇を捕えたからだ。 「まぁ、いたみたいですね。」 しれっと答えると、土方さんは肩をすくめた。相変わらずだな、と言いたそうな顔をしている。 「行くか。」 前触れなしにそう言って、彼は空港の出口へ向かった。わざわざ出迎えに来たのに素っ気ない。あんたこそ相変わらずだ。 「あーあ、今日から忙しくなりまさァ。せっかく土方さんがいなくなったと思ってたのに。」 一年ぶりには相応しくない台詞を吐いてから隣に並ぶ。ポケットにつっこまれた彼の手と俺の手を強引に合わせると、ほんの少しだけ、ぎゅっと握り返してくるのが分かった。 会いにいく 他愛のない日々が、 やっと始まる気配がした。 遠距離な2人 END |