印象をたぶらかす行為
角膜が焼けた気がした。公園の水飲み場から大量に流れ出す水に反射した日差しが僕の目を鈍らせていく。蛇口の水を頬張る彼女の口がぽっかり穴を開けて僕の方を向いている。外にいるだけで汗ばんでいく体が気持ち悪くて仕方ないが、公園の蛇口から出る水を何の戸惑いもなく飲める彼女はもっと気持ちが悪い。
「曽良君も飲めばいいのにさ。ここらへん自販機ないんだし熱中症になるよ」
「汚いですから」
「汗まみれのが汚い」
拭いきれなかった水が顎から首へ渡り胸の中へ消えていく。ワイシャツの襟も濡れていた。あんな汚い飲み方をするからだ。
「その目、嫌だ」
「どんな目ですか」
そう尋ねれば、おもむろに近付いてくる彼女の指が僕の目の形を確かめるようになぞられる。目尻にくすぐったさが生まれるころ僕も自然と彼女の濡れた襟に触れていた。伝わる冷たさは僕を涼しくさせることはなく触れた以上にあつくなる。無意識にこぼれ出た溜め息は彼女に気付かれた。
「キスしていい?」
返事なんて返す間もなく向けられた、ひときわ熱を持っていそうな唇を避ける。それでも無遠慮な感触が口角を奪う。せめてもの抵抗として逸らした視線は空の果てからやって来る濃い色の雲を映していた。