切り取られたシーン




「暑い…どうするタピオカ、ここはひとまず帰るか。アキラさんもいないし」

グァッ、という返事を返されても私にアヒルの言葉が理解できるわけがなかった。アキラさんとタピオカのやり取りを見ていると自分まで会話できるものだと、つい勘違いしてしまう。血相を変えた宇佐美君達にアキラさんがタピオカを残してどこかへ連れ去られて行ってしまったのは、まだ海岸にジョギングを兼ねて犬の散歩をしてる人がちらほらいた頃。今はすっかり真っ黒なサーファー達の姿しか見えない。腹の虫も珍妙な音を立てて泣きはじめているし、そろそろ帰って夕飯にありつきたいのだけどもタピオカを置いていくのはまずいだろう。もうすぐ島に住み着いている猫の群れが行列をなして出てくるはずだ。

「あれ、でもタピオカって猫に強い?店長ともいい勝負してたしさ」

「当然だ。タピオカの前に猫非だ」

「ネコアラズ?」

ちゃっかりタピオカを抱えて、どこからともなく現れアキラさんは帰ってきた。頷くようにガアガア鳴くタピオカは羽を広げている。

「どこ行ってたんですかあ?また釣りですか」

「大物がいるって騒がれたら仕方なくてな。タピオカの面倒をありがとう、すまない」

「アキラさんを見てると大人も子どもと同じようにはしゃげるんだなって分かります」

私の言葉が刺さったのかアキラさんは咳払いをして小さな声でうるさいと呟いた。もっと茶化してやろうかと口を開きかけたが唸りをあげる腹の虫がそれを止め、私はアキラさん以上に頬を染め上げることになってしまった。

「カレー」

食べてくか、の毎度の一言に私は拗ねた顔を見せながらも頷いてしまうのだった。

「…目玉焼き二つ乗っけてください」

「五十円だからな」

「お金取るの?!」