君たちは夜の歌舞伎町に闇はないと考えているだろうか。華やぐ電光に飛び散る電飾看板が波のように道へ流れていると思っていることでしょう。だが決してそんなことはない、小路を一つ外れれば光なんてありやしない真っ暗闇が口を広げて待っているのだ。

私は頼まれた使いを終え、屯所に向かって帰りを急いでいた。下駄の中に砂利が入ったせいか足に感じる違和感で思うように走れなかった。胸に挟んでいた財布を整えようと一度足を止めると、隣の小屋と小屋の間から男の声が聞こえてくる。

「おい、そこの女。遊んでくれねェか」

声の主は姿を現し、影のように私の背後を取った。手がするりと腰から腹へと動いていく。

「あら、誰で御座いますか」

「夜鷹の分際で何を言うよ」

勿論、私は夜鷹のような売春婦じゃない。まっこと失礼極まりないことであるがこんな夜更けに女一人ほっつき歩いていれば勘違いするのは仕方がない。しかし、男の手が襟の中へ入っていくのは些か容認できることじゃなかった。ちらと後ろを見やれば派手な着物の柄が目に入り、胸元は男のくせに大きく開かれている。顔に巻かれた包帯に視線が止まったところで私は男に小屋へと引きずられていることに気がついた。

「あ、あ、御止め下さい」

「お前、夜鷹のくせに良い匂いだな」

「御止め下さい!」


つぎ