月にやって来る憂鬱な病




黄色いドラッグストアの自動扉をくぐり抜けて、菓子コーナーに目移りをしながら隅のコーナーに足を向けて周りに視線を配る。腰の重みに、そっと手を当てながら数ある生理用品の中からいつもの物を選んでレジに向かおうとすると、後ろから伸ばされた手に邪魔をされた。

「買うの?」

とっさに振り向いて愉快顔の折原の手を振りほどきたくても、私には彼の顔を睨みつけることしか出来ない。ありったけの澄まし顔を彼に見せつけることが出来てるだろうか。

「デリカシーない」

「たまたま見かけたから追いかけて来たんだよ。学校サボって、悪い子じゃん」

私が持っていた物のを軽々と奪い取り、レジに向かうと思いきや私の手を引きながら社員用扉を背中から通り抜け蛍光灯の行き渡らない通路を進んでいくと、ダンボールのまま積まれた商品があらゆるところに点在し、剥き出しのコンクリートが妙な雰囲気を醸し出していてなんだか怖くなった。覚束ない視線が行ったり来たり、私の判断能力は確実に状況に飲み込まれていた。

「ここは」

「さあ?従業員用トイレか何かじゃない」

この男はまたよからぬことを企んで身も知らない誰かと、私を嵌めようとしているのだろうか。それとも、たまに起こる奇妙な気まぐれなのかもしれない。何れにせよ厄介なことに変わりはないのだから、元来た道を戻ろうとした。

「帰るのはナシ」

「用件は」

「かまって欲しくて」

「他を当たって」

「つれない」

強い力が腕に入って、背中から壁に打ち付けられた。衝撃で呆けた私に折原はポケットから小さなケースを取り出して横に振って見せた。薄いピンクの錠剤がいくつか中ではじけて、今度は私が首を横に振った。しかし、中から取り出されてしまった一粒が折原の唇に挟まり私に運ばれる。きつく閉じた口は胸回りを探られた拍子に崩れてしまい、薄い唇が無理に触れて肌が舌で汚されてしまう。隙間なく埋められたキスの合間が息苦しくて折原の肩に手をかけたはずなのに、いつの間にか抱きしめるような形になっていた。耳元でピルだから、と錠剤の正体を告げられる。体に合わなかったらごめんと添えて。

「これあげるから明日も同じ時間に必ず飲んでね」

「飲まないと…?」

「俺だってたまには怒るさ」

折原はきっと怒らない。彼の熱はそんなところには向けられないのだ。

「明日から吐きっぱなしなのかなあ」

「そしたらいい病院紹介してあげるよ」

看病はしてくれない。小さな寂しさを爪先に乗せて私は慣れない手を繋いだ。