それが偽物だとは思わない




黒い髪が流れる一本一本を数えながら終わらない時間を過ごそうとした。触ったら怒られるだろうか。こうして隣で並んで寝転がっていることさえ奇跡だというのに、次を求める欲望が膨らんで私の体を操っていく。二人、制服のまま西君のベッドの上で居心地も悪く。

「西君、クーラーつけて」

「何で?」

「この部屋、暑いもん」

「知るかよ」

西君の答えは反対を向いたままで、私には返ってこない。こめかみに熱がじんわりと浮かぶのを感じたのをきっかけに、私は起き上がって西君の制服の襟を噛んだ。小さく引っ張ってみると髪ごと頭を掴まれ引き剥がされてしまい思いきり睨まれる。それから両手を後ろに組まされ、私にじっとしていろと指示を出して床に放り投げてあった鞄からカッターナイフを取り出した。

「このまま」

「もし、やめたら?」

「もしとかない」

制服のシャツを脱がせるでもなく西君はカッターナイフを私の首もとに浮かせて薄く切っ先を滑らせた。ぷつぷつと浮き出てくる血を確認してから指ですくうと口に運んで舐めとったので私が薄気味悪い気持ちになったのはシーツをなぞる音とともに掻き消した。ベッドに沈みこむ間、わずかに流れる景色の中で見えた西君の苦い顔は忘れはしない。その顔を私で濁すのはどうだろう。