見上げ手を振る夕日に




風車のように回る葉っぱを追いかけながら縁の下に落下したのだめを見ながら榎木津は欠伸をした。噛み締めるでもなく大口を開けて喉を鳴らしながら涙が目尻に滲み出る。

「のだめ無事かァ」

「狸を見つけました!」

「化かされてるんだろう」

土をあちらこちらにつけながらのだめは葉っぱを握りしめ大股で畳の上を闊歩した。榎木津の前に正座をすると、彼の膝の上に持ってきた葉っぱを指で均しながら丁寧に広げていく。それによって榎木津の服を汚しているという事実はのだめの頭の中や榎木津の頭の中にもないようだった。葉脈は黄色く翳り穴も空いている葉っぱを大切そうにのだめは扱う。

「良い匂い。綺麗な緑」

「狸からの土産か」

「私からの土産です。でも、やっぱり榎木津さんにはあげたくないなあ」

「よこせ」

「嫌だ!」

榎木津が卓に頬杖をつきながら奪ってやる気持ちもそこそこに手を伸ばせばのだめは舌を出して笑った。

「のだめ、そのまま舌を出していろ」

のだめの顎を抑えながら榎木津は彼女舌に自分の舌を重ねて擦り合わせた。困った眉をするのだめを見て、愉快だと胸を弾ませる昂揚に目を瞑る。うなじをなぞってやりながら舌を離すとのだめの目は当然、怒りの形を表していて、思いきり膝を叩くと葉っぱを下敷きに榎木津の膝の上でそのまま伏せってしまった。

「おやすみなさい」

「おやすみ」

このように中禅寺秋彦の家は二人の愚か者によって憩いの場と相成るのだった。


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