睡眠の足りない僕らは道に迷う




トレイ一つ分の距離。手を伸ばせば埋められるこの距離を空かせたまま何もしないのは彼女のゼロ距離にいる河合のせいだ。付き合ってるわけじゃないのに他を寄せ付けない雰囲気が二人にはある。もしかしたら、そう感じているのは僕だけかもしれない。

「妹子、ポテト一本貰っていい?」

「あぁ、全然食べて」

今、彼女から埋められた距離。それは時間にしてみれば短く、フライドポテトの山から湿気っているものを見つけだすまでの間。僕のなんかじゃなくて、河合のを貰えばいいのに。何のために買ったのだろうと思うほど大量のフライドポテトが余っている。ハンバーガーも一噛じり程度しか食べられていない。彼はどうしてここに来たのだろう。彼女を誘ったのは僕で、河合を誘ったのは彼女という悪循環が生じてしまうのは僕自身のせいじゃないかと頭を抱えたくなる可能性に、叫びではなくため息を吐いた。

トイレに行ってくると席を立った彼女を目で追うと、肘をつき、くしゃくしゃに丸められた包み紙を眺めながら、ぼやいた。

「食べなきゃ五百円がもったいないよ」

「なら、小野にあげます」

「のだめも?」

河合の眉間が潜められて、ふてぶてしい顔がよりいっそうふてぶてしくなり、目つきも険しく僕を射抜く。黒く穴があきそうだ。

「別にのだめさんは僕が所有してるわけじゃないですけど」

「じゃあ何でここにいるの?」

「のだめさんに誘われたから」

「それだけじゃないだろ。いつもなら、嫌なもんはきっぱり断るじゃないか」

「だから言ってますよね。のだめさんに、誘われたからって。これ以上の理由なんてないですよ」

視界に彼女が映る。何話してたの、と言う彼女に悪気なんてものはこれっぽっちも存在してないんだ。河合が無言で彼女の頬を抓ると僕に助けを求めてくる声。のだめ、簡単だよ。河合の肩を掴んでいる、その手を僕に差し出してさえくれれば、僕はいつだって君を連れ去って砂浜でも教会でも駆けてあげる。恥ずかしいから出来ればやめてもらいたいけど、そういうベタなのがのだめは好きだろう。僕はね、物語の主役になってみたいんだ。

「助けてもいいけど、条件があるよ」

それについて君はどうおもう。


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