目に見えない素養




私は昔からくじ運が良くない。縁日で引いたくじには備長炭ひと月分を貰い、初詣に引いたおみくじは中吉、そして月一で行われる席替えで引いたこの席は一番前の扉側。夏は暑いし冬は寒い。暖房やクーラーがききにくいだけでなく、私には何の関係もないもめ事に巻き込まれることがある不運の席だ。

「のだめ見ましたか、こいつが僕の肩に台をぶつけたのを」

「ぶつけてませんよ!見てたよねのだめちゃん」

「いや、私あの寝てたから」

決して私は悪くないのに河合先生は出席簿を思いきり私の頭に叩きつける。現代社会担当の小野先生と国語担当の河合先生は理由は知らないが非常に仲が悪い。河合先生が一方的に嫌ってるのか大体いつも小野先生は腰が引き気味だ。

「河合先生やめてください、出席簿へこんでるじゃないですか!」

「この馬鹿はこれくらいしても良いんです。僕は小野先生みたいに日和ったやり方してないんで」

「俺だってちゃんと叱るときは叱ります!のだめちゃん、罰として一緒に教材運んで」

「えっ、小野先生そんなに荷物ない…」

せいぜい持ち運び用簡易スクリーンぐらいで目立った荷物はあまりない。これは完全なるとばっちりだ。私が文句を垂れていると河合先生が急に小野先生の胸ぐらを掴んで廊下に押し出し、入れかわるようにして教室に入った。

「運ぶ必要ありませんよ。もう罰は受けたでしょう」

「ちょっと、どういうことですか!」

「僕の授業に遅れたらどうするんですか。馬鹿は聞き逃していい授業なんて一分もないんですよ」

ぴしゃりと言い放った河合先生の差別的な口上に悲しいかな小野先生は反論出来ず、悔しそうに唇を噛んで立ち去ってしまった。

「あの、大変間が悪く恐縮なんですが私宿題を忘れちゃいまして」

振り返った河合先生はじっと私を見つめる。今度はチョークの粉をばらまかれるに違いないと思い息を止め目をつぶった。けれどもやってきたのは頬を抓られる鈍い痛み。

「寝ないでくださいね」

私は気の抜けた返事しか返すことが出来なかった。やっぱり、小野先生を手伝ってあげれば良かったんじゃないかと小さく同情した。