名前を考えよう




まとめたファイルを床にぶちまけてしまった。ため息を殺しながら拾う素振りを見せ芥辺さんのほうに視線を飛ばすと完全にこっちを見ていて目があった。

「今日でそれ六回目だけど、のだめさんの中でそれって流行ってるの?」

「別に流行ってないです、ごめんなさい」

「手元、注意してね」

そう言うと芥辺さんは読書に戻った。眠ってくれても良いんだけどな。拾い上げたファイルを今度はクリップで留めてデスクの中にしまった。これで午後までにこなさなきゃならないものはあらかた終えたことになる。あとは佐久間さんが帰ってこないと片付かないものだから、それまでお昼でも食べに行こうかと私は財布を片手に立ち上がった。

「昼?」

「そうですけど、仕事は終えてありますよ」

「いや、適当に俺の飯も買ってきてくれ」

「ああ、はい」

ということは必然的に事務所で昼を食べることになりそうだ。行こうとしていた喫茶店ではなくて持ち帰りの出来る店を頭の中で探しだす。こうなるとやはりマックかモスか。

「外で食べるつもりだった?」

「え、あぁ、全然そんなことないですよ。大丈夫です」

表情と思考の読めない芥辺さんの顔は謎に満ち満ちている。一瞬、一切の雑念を閉め出して私は芥辺さんを凝視てしまった。

「ハンバーガーとかで良いですか」

「うん」

水色を下地にして染まっている事務所の中には車の走行音と、どこかで行われてる工事の音が小さく忍びこんでいて、その空間の快適さに気が付いてしまった私は少しだけ外に出たくないなぁ、と思った。

「のだめさん」

「あ、ごめんなさい。すぐ行ってきます」

「いいよ、やっぱいらない」

「お腹空いてないんですか?」

「うん、いっぱい。だから、そこにいて」

「はあ、分かりました」

椅子に座り直して水筒のお茶を啜った。私のお昼はどうしようか。ずっと向こうで不器用が欠伸をする声が聞こえた


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