家には一人で




年末は実家に帰らず一人アパートでテレビを見ながら年を越す計画をしていた。しかし、足りないものがいくつかある。まずは蜜柑、そして炬燵。この二つがないというのは致命的に近かった。特に炬燵は私が今一番欲しいものだ。

「お金がないから無理なんだけどさ」

毛布を取りに行こうとするとチャイムが鳴った。覗き穴を見て玄関を開ければ、真冬にしては薄着の風魔君が立っていた。

「わあ、こっちにいたんですか風魔君」

「うん」

「年越しは実家じゃ?」

「いや、こっち」

「ふうん」

「のだめに、渡したいものがあって」

風魔君の背後を見れば布に包まれた何やら大きい物体と段ボール一箱。この二つが何なのか全く見当がつかない。

「なんですか、これ?」

「お年玉の代わりに」

軽々と布に包まれた物体を私の部屋に運んでいく風魔君。出来れば少し部屋は汚いから、あまりがつがつ中に入ってほしくないんだけど、私は黙って見つめていた。

布が外されると出てきた物体は、なんと私が欲しくて仕方なかった炬燵。ちゃんと布団まで付いている。一体どうして風魔君はこんな物を。

「まさか、これがお年玉代わりってことですか…?」

「あと、これ」

外に置きっぱなしだった段ボールも中に運んで蓋が開けられると、中身はぎっしりと詰め込まれた蜜柑の山。

「風魔君エスパー?!」

「お年玉」

「でもこれ炬燵、いくら…」

「そんなこと、気にしなくて良いから」

状況に置いてかれがちな私をよそに風魔君は着々と炬燵を設置していく。元々あったテーブルはベランダに立てかけられ、まるで前からあったかのように炬燵は私の部屋の中心を占めていた。

コンセントを差して準備が完了。風魔君は私を炬燵の中に誘導してスイッチを入れた。ちゃっかり風魔君も中に入っている。

「えっと、風魔君は、えっと?」

「のだめ」

「は、はい」

「一人だと、寂しくて」

「じゃあ、一緒にテレビ見ますか!蜜柑こんなに食べきれないし」

「いいの?」

「むしろこっちがお願いしたいぐらい」

風魔君は小さく笑うと蜜柑を一つ手にとって私の頭の上に器用にも落とすことなく乗せた。

「ありがと」

「来年もよろしくお願いします」