ハート
「明けてませんけど」
放課後、思いついたまま俳句同好会に顔を出してみれば年賀状を河合君から手渡され、突然のことにリアクションに戸惑った。
「これは、どうしたの?」
「芭蕉さんの年賀状作りを手伝ってたら余ったんで。いらないですか」
「いやっ、いる。超いる」
表面には住所も何もなく私の名前だけが書いてある。裏面には見たこともない、まるで生気を感じられない細長く伸びたクマにも見える生き物が印刷されていた。来年は卯年なのに。
「メッセージは何もなし?」
「メッセージとかいりますか」
「まぁ、一応年賀状だし…」
「のだめにメッセージが特にないです」
「そういうこと言わなくても良いと思う」
親指を唇にあてながら何かを思案し始めた河合君を見物することにして私は作業の跡が真新しい机に背をもたれかけた。今年も残りあとわずかとして私のやり残したことは何だろうと想いにふける。
1月から思い出してみると初っ端からやり残したことがあることに気が付いて唇を噛んだ。これは心に負荷がかかるから止めにしよう。
次のお題を引き出そうと無意識に髪をいじっていると河合君が隣にやってきて私の髪に触ろうと手を伸ばしていた。私がそれに気がつくとすぐにその手は引込められた。
「触らないの?」
「触りません」
そう言いながら私のスカートの上に手をちゃっかり置いてるから河合君の思考はよく分からない。
「来年も好き」
「静かにしてください」