くるまのなか





車の中で体育座りをして中々私の方を振り向かない遊馬崎君に狩沢さんの同人誌を投げつけた。

「遊馬崎君何してるのお」

「…ばか」

「えぇ何で?」

「のだめちゃんが全部悪いんすよ!」

「だから何で」

「…今投げたその薄い本、俺に見せましたよねえ」

「うん、おもしろかったから」

「ひぃ」と、また頭を抱えて丸まってしまった。ガチガチのドロドロなBL本を遊馬崎君の眼前に持ってきて遊んでいたのが25分くらい前。慌てる姿が面白かったから、どんどんページを捲って見せていったのが20分くらい前。冊子がクライマックスという所で遊馬崎君が猫だましをしかけてきたので終了したのが10分くらい前。

「それが何なのさ」

開いた座席のスペースに仰向けに寝転がれば、同人誌を手にとってパラパラと見返している遊馬崎君がチラリと覗く。

「最初は未知すぎて理解不能だったんすけどね、段々エロが増してくにつれて」

「つれて?」

とんでもない絡み合いが繰り広げられている見開きページを開いて指を指す。

「こういうのやったら、のだめちゃんヤバそうだなぁって思ったら…」

「…思ったら?」

「キュンとしちゃいまして」

「キュンとするとこなんてないよお!」

「のだめちゃんのせいっす」

「…関係ない」

遊馬崎君は同人誌を私の横に置いて、上に跨ってきた。まさか私、遊馬崎君に。

「ほ、掘られちゃうの?」

「掘らないっすよ!」

「じゃあ、何するの?」

「それはもうこの本を超えるぐらいムチャクチャ濃厚なのを」

「でも…」

「もじもじしちゃってどうしたんすか」

「窓から渡草さんがガン見してる…」

また怒られる。主に遊馬崎君が。