chevy
Hey Honey, Where am I going?
「のだめ、どこへ行くの」
「リーマスがいない所に行く」
そう言ってのだめは突然、僕の前から姿を消してしまった。これは一見して聞くと別れ話に聞こえるかもしれないけど、そうじゃない。
「リーマス、お前はついに脳みそまでチョコか?」
「うるさいなあ。シリウスは単純だから分からないんだ」
多分彼女は旅にでも出たんだと思う。だけど、僕に行き先を告げないで出かけた点はずいぶんなもんだ。僕はのだめの事がとても好きなのに。君の為ならチョコだって焼き捨てたっていい。
彼女が姿を消して2週間が経つ。僕は試しにのだめの両親に手紙を書いてみたりした。でも返事は中々呆気ないもので
「のだめは今ホグワーツにいるのよ。あなただってそうでしょう?リーマス」
確かに今僕たちはホグワーツにいる。いるはずなのに彼女はいない。次は彼女の友人に手紙を書いてみた。でもやっぱり僕の手紙は同じ寮の女の子達に気味悪がられるだけで手紙は、つき返されてしまった。
さすがの僕もどうしたらいいのか分からなくなってしまい、そのまま時間だけが過ぎていった。満月の日がやってきてものだめは現れない。それからまた数週間が経っても状況は変わらず、のだめは現れなかった。
のだめが昔、僕にくれたラブレターを漁ってみた。女の子が持っているような可愛らしい物じゃないそれは只の羊用紙に書き込まれている僕の宝物だ。その束を持って校庭に出る。風が刺すように冷たいがそんな事はあまり気にかかる事じゃなかった。
「もういないのだめの物なんていらないよ」
僕はラブレターを湖に全て流した。流れていく僕とのだめの思い出。やっぱりちょっと風が冷たすぎるかもしれない。水を含んでゆらゆらと沈んでいくラブレター。僕の横に咲いている名前の分からない花が何か言いたげに揺れている。寂しい。思わず僕は座り込む。
「ねえ、のだめ、寂しい」
僕は何も持たないで君に会いに行くから、早くどこにいるか教えてくれよ。
後ろから足音がする。僕は後ろを振り向かずに、沈み続けるラブレターを見つめていた。このスキップでもしてるような足音は、これはきっと――。
「これでも、さみしい?」
「うん」
「ラブレター捨てちゃったの?」
「うん」
「でも大丈夫。海の中には砂漠があって砂漠の中には水があるから、また戻ってくるよ」
「何言ってるんだ。大体ここは海じゃないし結局は水なんじゃないか。それより君はどこに行ってたんだい」
「列車に乗って、リーマスのいないすごく遠い所に行ったのよ」
「そうかい」
「列車の窓から流れる景色はとても素敵だった。でも、どうして景色は後ろに流れるのかしら。想い出してるから?時間は止まらないから?」
「そんなこと知らないよ。のだめ、なんで君はそんな遠い所に行ったんだよ」
「天国の香りを嗅いでみたいと思ったから」
久しぶりののだめとの会話は意味の分からない文章の羅列ばかりで、僕の気分はみるみる落ちていく。いつも彼女はそうだった気がしてくる。けど、僕はそんな彼女を愛していたから。のだめが僕をそっと後ろから抱きしめる。僕の肌に触れるのだめの頬が、さっきの風のように冷たくて身震いがした。
「リーマス、またあの時みたいにキスして」
「しないよ」
「私がリーマスのチョコを食べ過ぎて吐いちゃった時でも、してくれたじゃない」
「でも今はしたくないんだ」
まわされた腕が僕を絡めとる。それさえも冷たい。湖のラブレターはもう全て沈んでしまっていた。
「ねえ、リーマス知ってるでしょ」
多分彼女はどこにでもゆける。でもそこには何もないから、こうしてまた僕を求めるんだろう?それだけは知ってるよ。僕に向かって囁くのだめの耳元に唇を近づけて僕は囁き返した。
君のメロディーには嘘がないから
麻薬みたいに僕を冷たく突き放す
「もう、いないくせに」
BGM/RAVEN
08/01/31