少女と河合




廊下を全力疾走する。体全体で感じる廊下の空気は生暖かくて不快だ。目には見えないたくさんの何かがが混じっているようで、汚い気がするから。あまり呼吸をしないようにしていたら当然息が苦しくなる。目的地まで、もうすぐ。

「たかが紙切れでずいぶん深く切ったな」

保健室の丸椅子に座り、先生に治療を受ける。傷痕から流れ出る結構な量の血を、まじまじと見つめる北島養護教諭の目は熱い。

僕は少し、ぼおっとしていたのだ。眠たすぎる古典の授業を真面目に聞いていたはずだった。体は眠いと訴えても、頭の中じゃ授業を聞きたくてしょうがない。この授業が好きだから。けれど、やはり体との攻防戦に敗れた頭は体の指示に従うしかなく。机の上に腕枕を作って眠ろうとしたとき、誰かの視線を感じた。

窓際を見ると、誰かが僕に視線を向けていたのは確かで、クラスメイトの根岸が「じっ」とこちらの方を見つめていた。その顔はあまりにも無表情で、つられて僕もその顔を見つめ返した。そうしている内に授業終了のチャイムが鳴り僕は、ぼおっとした頭のまま教科書やノートを片付けた。どうもそれがいけなかったらしい。思いきり指を切った。

じわじわと痛み出す指を見て、そういえば根岸はと思い、席の方を見ると既にもう彼女の姿はなかった。気持ちの悪い奴だ。


つぎ