見たいものが見えないお年頃




「この色、俺は好きじゃないな」

赤をひいた私の唇に親指をなぞらせながらイルミさんが放った意見に私はしかめっ面を返した。公の場に出る時は必ずつけていくお気に入りの色にケチをつけられるのはいい気がしない。

「取れる…」

「鏡見て化粧した?」

今度こそ私はイルミさんに背を向け、その場から駆け出すように化粧室へと逃げた。後ろ手に鍵を閉めてそのまま扉に寄りかかり隣の鏡に視線を寄せると黒いマスカラの乗った睫毛を触って、まじまじと自分の顔を見つめる。指についたアイシャドーの色がひどく汚いものに思えた。


つぎ