二人で、なお年頃




「そういうの世間じゃ引かれますから」

「やっぱりね」

分かってたのならやるな。手の上の指輪取ると私の指にはめた。見た目の割りにずっしりとした重み。透明度の高いアメジストに自分の顔が映りこんで目線を逸らした。

「プレゼントだよ」

「もともと私の物なのに」

本当は私も嘘を吐いている。だからこれ以上、勝手に持っていったことを追求するのはやめにした。

「気に入った?」

「はい、まあ」

「それなら良かったけど」

街灯に指輪を透かして、次にイルミさんを透かす。紫の景色の中、フォーカスされる彼の姿は良く映える。

「馬鹿馬鹿しいと思ってますか?」

「指輪なんて興味ないし俺には理解できない価値だけど、それを馬鹿馬鹿しいなんて思ったことはないよ」

まじろぎもせずにイルミさんの眼が私のぐらつきをベクトルの空間に閉じ込めた。

「それはななこにとって価値がある物なんでしょ。俺はななこを喜ばせることに価値があると思ったんだ。俺にとって指輪の価値はななこの気持ちに依存したものだから」

言葉を辿るように指輪の円をなぞった。イルミさんは続ける。

「俺とななこは思考や趣味を含めた価値観が決定的に違う。その差を埋めることはできないよ、多分。でも認めることはできる。俺は指輪をななこに渡すことでその意思を示した」

詰まる私と彼の距離に今度こそ恐怖を抱いた。命を奪われることに対してではない。心の均衡を崩されてしまいそうな事実に、血の気が引いてしまうほどの恐怖を抱いているのだ。

「ななこは俺を認めてくれる?」

「それじゃあ、まるで」

これから互いに愛し合うかを決めるようじゃないか。

「ななこは何で俺に示してくれるの」